オープンソースに学ぶアジャイル立法

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「オープンソース」と「オープンソーススタイルの開発」は違う

――簡単に自己紹介をお願いできますか。

増井:学生の時からずっと起業していて、実は一度も上司がいたことがないのです。

高校生の時からアルバイトで顧客管理や在庫管理のプログラム作りをしていて、大学生になってもずっとフリーランスでやっていました。そのうち大きな会社の取引も増えてきて、法人化しないと口座が作れないと言われてやむなく会社を作り、一人で回らないから人を雇ってやっていました。

でも会社をやるのはあまり向いていないことに気がついた。そこで会社をたたんでもう一回フリーランスになったものの、アメリカに行くビザを取るためにまた起業しました。その後リーマン・ショックにやられたり、自分の限界を感じたりして日本に戻ってきて再度起業し、その会社も大きくなった。僕は小さい会社を立ち上げるのが好きなので、10月に独立したところです。

――オープンソースに関わるようになったきっかけは、どのようなものでしょうか。

増井:『伽藍とバザール』(https://cruel.org/freeware/cathedral.html)というエッセイがあります。オープンソースでいちばん大きなソフトウエアであるLinuxを作っているのを観察した人が、どうして参加者全員がフラットで、まとめる人もいないのに、複雑なソフトウエア開発ができるのかを書いたものです。それを読んで、すごく感銘を受けました。

たとえばWikipediaは、今までは偉い先生が正しく書いていることをみんな信じていたのを、みんなそれぞれ寄ってたかって書けば、誰かが間違ったことは修正してくれるし、新しいことが出たらもっと上書きしてくれるだろうという性善説に基づいて作られています。一部の人しか書き換えられない前提だと荒らされて壊れてしまうことが多いのですが、誰もが書き換えられる前提だと、半数以上が荒らさない限り、荒れた状態にはならない。均衡が取れるようになっています。ソフトウエア開発も同じようにオープンな場で議論することで、複雑で高品質なソフトウエアが作れるという話でした。

そこで、本当にみんなでソフトウエアが作れるのか試してみたいと思って作ったのが、PukiWikiというツールです。実際にやってみたら100人以上の人が開発に参加してくれて定期的に物がリリースされ、僕が一人で作るよりも圧倒的にいい物ができました。

よく誤解されるのですが、オープンソースとオープンソーススタイルの開発は違うのです。オープンソースはソースを公開して、誰でも使ったり改変したりしていいよというだけです。なので、公開して一人で作ってもいい。オープンソーススタイルの開発は、いろいろな人からの貢献(contribute)を受けながら作る手法になります

古川:それこそ松下幸之助さんも大事なこととして言っていた、「衆知を集める」。インターネット時代になり、オープンソースでやっていけば、いろいろな衆知を集められます。そういう状況での政治の在り方、民主主義の在り方として、新しい時代の議員は、集まってくる衆知を形にしていく役割を担ったらいいのではないでしょうか。

優しい独裁者の存在

増井:よくオープンソースはすごく民主的と言われるのですが、実はトップがはっきりしているのです。僕らはそれを「優しい独裁者モデル」と言っています。

もちろん検討はさまざまするのですが、議論だけで決まらないことは世の中にすごく多いので、最終的にはオーナーとかメインコントリビューターと言われるような人が独裁者となって、一任で全部決める。だけど、その人たちは普段から高圧的に何か言うわけではなくて、コーディネートに近いかたちです。

――ファシリテートしていくのに、優しい独裁者でやっていくのはけっこう大変だと思います。特に政治だと意外と炎上しやすいからやらないという人が多いのですが、オープンソースの世界では炎上したり逆恨みされたりすることはないのですか。

増井:ときどき本当に大炎上して、プロジェクトがそのままなくなることはあります。

あと、オープンソースの世界は分裂することが許されているのです。分裂した両方とも同じリソースを持てる。双方が改良を加えていった結果、もう一度仲直りするケースもあります。

キャッチーで、役に立つか、面白いか

――みんなで書くようなソフトウエアを作るときに、どういうところに投げて、どういう人が集まってくるのですか。

増井:前提として、オープンソーススタイルの開発、すなわちみんなで寄ってたかって作るような開発では、ゼロイチはうまくいかないと言われています。クリエイティブな発想は集合知では生まれないので、必ずイチまでは誰か一人なり少人数なりが作る。

オープンソーススタイルの開発がうまくいくためには、いくつかの条件があると言われています。必ずある程度顕在化したものになっている。参加する人は、新しく入った人も、昔からいる人も、初めて作った人も、基本的には平等に扱う。変更点を必ず全部オープンにする。誰がいつ削除して、追加したか、全部ログが残り、議論の経過が全部分かる。

オープンソースにすることと、オープンソース開発は違うのです。一人で作っても、中身を全部出せば、オープンなソースです。しかし、オープンソース開発は、みんなで寄ってたかって作ることです。

実際のところ、ほとんどのオープンソースは公開しても誰にも見られずに終わります。99%は、誰にも構ってもらえないで沈んでいくのです。それがちゃんとコミュニティとして回るとなると、本当に1%ぐらいです。

古川:その1%になるかならないかの違いは、どこにあるのですか。

増井:まず、キャッチーかどうか。面白いと思ってもらえるかどうか。そして、興味を持ってもらえるか。人間の時間とアテンション、興味は有限で、世の中にこれだけ面白いことがあるなかで、お金にもならないことにわざわざ自分の時間を割くのは、役に立つか、面白いか、どちらかしかない。

細かく試す

――オープンソースと同時に、古川さんと一緒にやりたいのが、アジャイル議員立法です。そこで、アジャイルという開発の仕方を説明していただけますか。

増井:今までのウォーターフォール型開発は、誰かが最初にやると決めて、細かいところを検討して、設計して、それを文章に落として、それを実際にやるかヒアリングしてと、上から下に順番に行くのです。基本的には、あまり戻らないのです。

それに対してアジャイル型は、とりあえず細かく試してみる。たとえば作成に1年かかるソフトウエアを小さい機能ごとに、文章の一段落みたいなものに、2週間単位ぐらいで区切るのです。それを試してやってみて、いろいろな問題が起こったら戻せばいい。

僕らは、大きな先のことは見通せないという前提があるのです。ビジネスだと、1年後にどうなっているかなんか、まず分からない。1年間かけて作ったけどそれは違うとお客さまに言われたときに、もう一回1年かけて次のものを作るとなると、永遠にすり合わない。だから、少しずつ出して、試してもらって、フィードバックをもらって、一歩ずつ作っていく。

政治の世界だと、特区はアジャイルに近いと思います。やってみなければ分からないことがたくさんあるので。

――国で言うところの実証実験ですよね。そういうのをどんどん政党もやってみていいと思うんですよね。若手の官僚や議員で、失敗しても挑戦したいという人はいっぱいいるので、そういう人と、形にしてみたいと思っています。

社会と学校の断絶

――平成期のエンジニアやプログラマーの仕事をだいたいやられていると思いますが、ポスト平成はどうなると思いますか。

増井:平成は、やはりインターネットができたことが圧倒的。プログラマーは、単純にコードが書けるだけ、技術だけというのでは、本当に差別化が図りにくくなっています。インターネットで世界がすごく小さくなった中で、いかに他人と協調しながらプログラムを作るか。対面ではないコミュニケーション能力というのは、この先すごく変わってくると思います。

――対面でないコミュニケーション?

増井:オンラインやチャットで、自分のプレゼンスをどう出すのかというのは、この先、仕事の仕方でも、エンジニアとしても、すごくあると思います。

古川:そういう視点から、これからの時代、学校教育の在り方はどうすればよいのでしょうか。

増井:今は、学校と社会人以降の生活が、あまりにも分断されていると思います。学校での評価と世の中での評価は、ほぼ関連性がない。学校では個性を出しなさいとは言うけれども、それを社会でどう発揮すればいいのかとか、それが自分の価値にどうつながるのかということを考える機会がほぼなくて、会社に入るととりあえず言われたことを5年やれみたいな話になる。そういった部分での、すごく大きな断絶がある。

「近未来ハイスクール」を手伝っているのも、それが一つあります。社会と学校の間があまりにも断絶していて学生の間に出会う大人の数があまりにも少ないため、すごく偏った社会人観になってしまったり、何を考えているのか分からなかったりするのが、非常に問題だと思う。社会と学校の間の垣根がもう少し下がってくれるといいなと思っています。

――そういう意味で言うと、政治家の世界は人と会っているようだけど、選挙区の人と握手しているだけだから、実際には秘書と政策仲間同士、後は官僚などとしか話していないのです。これをどうにかしないといけないというのがあります。

オープンソースはゼロサムではない

――これをオープンソース的にやるとしたとき、どんなツールに投げていったらいいと思いますか。

増井:オープンソースのエンジニアはほぼすべてGitHubという会社のツールを使っています。

――世論形成のGitHub的なものがあるといいんですよ。

増井:オープンソースのいいところは、たくさんの人に使ってもらっても、僕らは何も減るものがない。

初めの頃はすごく問題になったのです。僕が作ったものをみんながただで使って誰も貢献してくれないのに、なんで自分は無料で貢献しなければならないのかという議論がよくありました。

でも、別にそれを誰かがただで使って、その人が儲かったからといって、あなたが何かを奪われたわけではない。その人が儲かったら、それは新しい財が生まれたのだから、社会全体としては豊かになっている。あなたの豊かさにはつながらなかったかもしれないけど、でもあなたはそもそもそれによって何も失ってはいない。

何かが奪われて誰かが金持ちになっているというのなら怒ってもいいと思うけど、別に何も失っていないで誰かが金持ちになるのなら、それは社会としてよかった。そしてそれは巡り巡ってあなたのところにも戻ってくるかもしれない、という考え方をするのです。

オープンソースはソースを誰でも変更できて、誰でもコピーできて、それを妨げてはいけないという、すごく強力な条文がある。必ずそれが全員等しく適用されることを契約上担保していて、その中で動くなら、それぞれのモチベーションが違っても、結果、コンピューター社会の中は豊かになるからいいよねというコンセンサスができています。

古川:GitHubはみんな使えるわけですね。

増井:エンジニアにとっては使いやすいのですが、たぶん普通の人が見ても分からない。たとえば法律の条文やドキュメントを管理するなら、それ用に作る必要があります。

――それをやりたいんですよ。若手官僚も協力したいという人がいるので、そういう人と各省協議でやっていることと同じことをGitHub上でやる。永田町は過渡期ですから、絶対にオープン側でやったほうがいい。

古川:本日はありがとうございました。勉強になりました。

――ありがとうございました。またお力をお貸しください。本当に楽しみにしています。

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