デザイン思考×中高生×ものづくりで「価値創造ができる人材」を育てたい

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高校生のときにMono-Coto Innovationと出会い、現在はデジタルハリウッド大学でデザインについて学ぶかたわらインターンとして同イベントの運営に参加している船川純氏に、Mono-Coto Innovationを実施する意義や、運営母体であるCURIO SCHOOLについて話していただいた。

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デザイナーのものづくりを体系化した「デザイン思考」を教育に

Mono-Coto Innovation を運営しているCURIO SCHOOLを一言で言うと「創造力をはぐくむ塾」です。代表取締役の西山恵太氏が、スタンフォード大学で発案したデザイン思考を日本に広めるために起業し、「ワクワクから創造力を育み自ら考え、行動する人を育てる。」をミッションに掲げて教育事業やイベント運営などを行っています。

具体的には、小学部、中高部、企業部でそれぞれ事業を行っています。小学部では東京の学芸大学と岡山県の新庄村で自ら問いを見つけ答えを探す、プロジェクト型の教室事業を、企業部では企業内の新規事業研修として社員・チームの生産性・創造性を育むデザイン思考研修を実施しています。最近ではミシュランやマクドナルドで研修を実施しました。

デザイン思考とは、デザイナーがものをつくるときの考え方や思考プロセスを体系化したもので、これを身に付けることで誰でもデザイナーと同じようにものづくりができるものです。

デザイン思考のプロセスでは4つのフェーズがあります。(図参照)

まず、インタビューを通じてユーザーを理解し、どこに問題があるかを見つけ出します。次に、その問題は目に見えているものなのか、または表面には現れていない、隠れているものなのかなど、あらゆる角度から分析して問題を定義します。そして問題を解決するアイデアを見つけ出した後、プロトタイプを作ってテストしながらアイデアの質を高めていきます。

頭のなかのアイデアにとどまらず、プロトタイプとして形にするのがデザイン思考の特徴です。

中高生と企業がコラボする、世代・立場を超えたものづくりイベント「Mono-Coto Innovation」

今回紹介するMono-Coto Innovationは、中高生と企業の共創によるオープンイノベーションを生み出す場として中高部で開催しているイベントです。「アイデアをカタチにして競い合う創造力の甲子園」というキャッチフレーズで、中高生と企業がタッグを組み、デザイン思考を活用してものづくりを行うプログラムです。

イベントは予選大会と全国大会に分けて実施されます。8月の予選では全国から集まった中高生がランダムにチーム分けされ、5つの企業がそれぞれ出題したテーマに対して10チームがアイデアを競います。期間中は参加者全員がデザイン思考を勉強し、共通言語として使います。

予選大会で各テーマ1チームを選抜した後、勝ち抜いたチームは4カ月間企業の担当者と一緒にアイデアをブラッシュアップしたり実際の製品を作ったりします。作り上げた製品を12月の全国大会でプレゼンし、優勝チームを決定します。採点基準は、問題設定やアイデアの独創性、プロトタイプがテストされて洗練されたものになっているかなどです。

過去大会では「中高生のスポーツ部活動の場で欲しくなるモノ」「中高生が欲しくなる“いまだかつてない”まほうびん」などがテーマとして出題されました。

中高生は進学校や高専、文部科学省が認定するスーパーサイエンスハイスクールの生徒などが参加しています。学校でイベント開催のポスターを見たり、ツイッターアカウントにフォローして興味を持ったのがきっかけで応募しています。また意欲のある先生が生徒に参加を勧めてくれたりしているようです。

イベント自体が2017年のグッドデザイン賞を受賞したほか、東京都が主催する「2017年世界発信コンペティション受賞企業」にも選ばれました。2019年で5回目となりますが、毎年開催の様子を日刊工業新聞に取り上げられたり、NHKで紹介されたりすることで認知度も徐々に高まっています。

参加者側のメリットは、中高生のうちにデザイン思考を学び、ものづくりを体験することで、問題を見つけて解決するプロセスや、問題解決に必要なツールについての知識を身につけることができること。さらに学年や地域が異なる生徒とチームを組んで協力することで、コミュニケーション能力をはぐくめることです。

企業にとってのメリットは、若い世代と出会うことで新しい発見があること。Mono-Coto Innovationという空間で一緒に取り組むことで、世代を超えたものづくりや熱意の創出など、いろいろな化学反応が生み出されます。

環境に合わせた投影型パソコン「ATOMOS」

私が2016年に参加したときは、富士通デザインが出題した「パーソナルコンピューター再定義」というテーマに取り組みました。

課題設定のフェーズでは、まずパソコンを使用しているときには物理的な制約があるという問題に注目しました。例えば、カフェのテーブルでノートパソコンを広げていると、飲み物が来た時にじゃまになってしまう。

また大勢で動画を見たいときに、画面が小さいため、みんなでディスプレイをのぞき込むかたちになってしまう。

このようなことを問題として定義し、今まで置くスペースを確保するなど「環境をパソコンに合わせていた」のを、これからは「パソコンを環境に合わせていこう」というコンセプトで新しい製品を発想しました。ATOMOS(アトモス)という投影型のパソコンです。

これはプロジェクターのように画面やキーボードを投影するパソコンです。立てかけたノートや壁など、どこでも投影できるため、場所をとらずに利用することができます。また黒板や壁や天井に投影することで新たな利用シーンも生み出せる可能性があります。このアイデアは全国大会まで進み、準優勝しました。

全国大会までの4カ月間は、富士通デザインのデザイナー2人に参加してもらってプロトタイプのフィードバックをもらったり、製品のデザインについて意見交換したりしました。実際に企業の担当者がものづくりをしているのと同じように、私たちも開発に参加させてもらえたことは、非常に素晴らしい経験だったと思います。

またアイデアだけだと実際に作ってみたときの問題を把握しきれないので、動く製品を作ってもらえたのも貴重でした。実際に作ってみて初めてわかることがあります。ATOMOSも、作ってみてプロジェクターの照度が足りないなど技術的な問題が見つかりました。現在は商用化に向けて開発中です。

価値創造ができる人材を増やしていきたい

私たちの身の回りを見渡すと、いまだ解決されていない問題や、まだ顕在化せずに眠っている問題がたくさんあります。そのような中で、社会は「問題を解決する、イノベーションを生み出す人材」を求めていると感じています。

しかし日本では、そのような人材を育てる教育制度は整っていないのが現状です。中高生の日常は学校と部活が中心です。例えば技術の授業でも、教科書が指定した内容を皆が同じように作るだけで応用がなく、ものづくりの要素はありません。そこに問題意識を感じたCURIO SCHOOLが、中高生の世界に「創る文化」を根付かせ社会の期待に応える人材を育てる目的でMono-Coto Innovationが生まれました。

Mono-Coto Innovationは、今まで22都道府県の中高生が約1000名参加しています。しかし全国の学生数が680万人いるとすると、カバー率はわずか1%以下に過ぎません。残り99%以上の中高生に対して「創る文化」をはぐくむためには何をすればいいのかを考えていきたいと考えています。また将来的には、価値創造できる人材に育った若者が起業したあとのサポートもできないかと考えています。

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講演後の質疑応答では、「一番難しい課題設定を学校では学ばない。ワークショップなどでも皆、目の前にあるもので何とかしようと考えてしまう。しかし困っていることを先に見つけて、解決のためには何を使えばいいか考えるのが大事だ」「シニア層と中高生がタッグを組むと、何か新しいことが生み出せるのではないか」など、参加者よりさまざまな意見が出された。

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