EdTechが進める教育の民主主義

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日本の教育イノベーションの祭典「Edvation x Summit 2018」が2018年11月に開催された。初回は大学の一角で開催された小さなイベントだったが、2回目は麹町中学校・紀尾井カンファレンスへと拡大。経済産業省「未来の教室」とも連動し、教育イノベーションの中心的なイベントとして成長した。2000名が参加し、100名以上の教育界のキーパーソンが登壇した。

このイベントの仕掛け人である高山智司に話を聞いた。

誰もが質の高い教育を受けられる環境へ

高山が同イベント開催の着想を得たのは、2017年にアメリカで開催された「サウス・バイ・サウスウエスト(South by Southwest、略記:SXSW)」の視察だった。SXSWは毎年3月にアメリカ合衆国テキサス州オースティンで開催される、もともと音楽祭でスタートしたイベントだ。いまはマーケティング、医療、政治など、多様な分野の最新テクノロジーを網羅するショーケースとなっている。

SXSWに参加した高山は「教育を民主化するのはテクノロジーだ」と確信する。

特に、洗練されたカンファレンス、フラットなコミュニティに参加し、日本の教育の後れに危機感を覚えた。偏差値でヒエラルキーが決まるような社会のままでは日本はだめになる。そこで、SXSWを日本にもってこようと考えた。

元衆議院議員で、現在IT企業の執行役員をつとめる高山は教育分野に造詣が深く、議員時代から現在まで、いくつもの教育関連プロジェクトに関わっている。

例えば、日本で国際バカロレア(International Baccalaureate、略記:IB)認定校を200校に増やす施策に関わった。IBは国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が提供する、1968年からスタートした国際的な教育プログラムである。外交官のような海外転勤の多い家庭の子供が、国際的に通用する大学入学資格がとれるようにつくられた仕組みだ。

教科ごとで縦割りかつ一方通行で教える形式ではなく、学習者が自ら考えるスタイルをとる。例えば「免疫」を学ぶ場合、日本の一般的な学校のプログラムであれば「理科」だけで扱う。しかしIBであれば免疫についてエッセイを書いたり、計算式が必要な場合は数学の解説をしたりするなど、ひとつのテーマについて教科横断的に学んでいく。

IBのプログラムの評価は高いが、課題もある。費用と人だ。

授業は英語なので、英語を話せる教師が必要である。教科横断型のプログラムをプロデュースできる教師は限られている。人手も時間もかかる授業になるため、学費が高くなる。お金持ちのためのプログラムだと言われてきた。

SXSWに参加した高山は、テクノロジーがこの課題を解決すると直感した。教育のイノベーションを通じて、IBのような優れた教育をより多くの子供たちに受けさせることができる。教育の民主化を実現する。

現在、高山は学生でもある。デジタルハリウッド大学大学院で、EdTechを専門とする佐藤昌宏教授のゼミに参加している。SXSW日本版のプロトタイプとなる第1回Edvation x Summitは、佐藤研究室を中心にデジタルハリウッド大学大学院で開催された。

コミュニティを活動の起点にする

テクノロジーによるイノベーションに加え、高山がSXSWでもうひとつ感じたことがある。コミュニティの価値だ。SXSWでコミュニティに参加し、議論を交わして自分の成長を感じた。

過去問をひたすら解いて1年に1回の大学受験に勝負するというスタイルは、これからの変化が激しい時代に対応するのは難しい。偉い人の話を聞くだけの場ではなく、学歴や役職などを意識せずに誰もがフラットに意見を言えるような、学習者中心のコミュニティがこれから社会課題を解決していく。

高山は2018年、Edvation x Summitというコミュニティの中に、さらに本のコミュニティをつくった。

その「世界で一番EdTechのある本屋」では、店頭で本を売らない。置かれた本の在庫は1冊のみで、著者のコメントが書かれたPOPを置いている。欲しい場合はPOPに書かれたQRコードを読み込んでネットで購入するのだ。

本は会話の糸口である。例えばプログラミング教育の本を置いておくと「なんでこの本を選んだんですか?」「プログラミング教育って、こういうことですよね」と話が始まる。人は会話をしたいのだ。

右:佐藤昌宏教授

通常とは少し異なる本のイベントも企画した。佐藤教授の著書『EdTechが変える教育の未来』をテーマにしたイベントだ。本を読んでいなくても、教育に興味のある人であれば誰でも参加できる。著者による本のイベントというと一方的に著者が本について語るのが一般的だが、この会は fire place chat のスタイル、つまり炉端で対話をするような形式で進めた。

50名の参加者は「STEAM教育」「グローバル」など、興味のあるテーマが書かれたテーブルに着席し、議論する。教育というテーマは誰もが身近で、なんらかの意見をもっており、大変盛り上がった。

政府や社会に不満があったとしても、文句を声高に叫ぶだけでは何も動かない。小さくてもよいのでコミュニティを次々につくり、多様な意見を出し合い、具体的な活動をするほうが社会を変える。先述した fire place chat スタイルのイベントはいくつかの団体から声がかかり、2019年は数カ所で開催する予定だという。これらのコミュニティづくりに「趣味だから。楽しいから」と取り組む高山。ワクワクするコミュニティが、教育のオープンイノベーションの芽を育んでいる。

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