カンボジアで日本人二人が新たな形のシェアハウス「トークンハウス」をスタートした。創業者はブロガーの平尾健悟(写真左)とIT企業で事業責任者を務める植木大介(写真右)だ。実際にカンボジアのトークンハウスを訪問し、植木に話を聞いた。

トークンハウスは、シェアハウスというリアルな場に加え、オンラインでもつながる、ハイブリッドなコミュニティだ。そのコミュニティで使えるトークン「TKC」(ポイントのようなもの)を発行する経済圏「トークンエコノミー」で運営されている。日本ではまだトークンという言葉自体は馴染みがないが、何か買ったらポイントが貯まるとともにそれを地元で使える地域通貨をイメージすると良いだろう。

二人は2018年6 月、カンボジアで共通の知り合いが主催した食事会で出会い、意気投合する。実現したい方向性が近かったからだ。平尾はブログで収入を得て、植木は企業に勤めて給料をもらいながら、「あったかい居場所」としてのトークンハウスを2018年11月に立ち上げた。

クローズドなコミュニティで稼げる・暮らせる
トークンハウスは日本人が気軽に海外へ行って挑戦できる拠点を世界各国に広げて行くことを目指している。海外で新たなことをしたり、自分らしさを表現しようと思っても、多くの人はお金や常識、世論にしばられる。勤めている仕事を辞めると収入がなくなる、そもそも海外へ渡る資本がないなどだ。
トークンハウスは安価に泊まれる場所・住む場所を用意し、より手軽に海外へ行く機会を提供する。またトークンハウス内でポイントを交換しながら暮らすことで「たくさん稼がなくてはいけない」「失敗しちゃいけない」といったことに縛られずに暮らしていける。

例えば月額5000円を払うと、オンラインコミュニティに参加できるとともに、毎月ポイントとして50TKCが付与される(5泊分)。1万5000円を支払うと20泊分が付与される。

ポイントは使うだけでなく稼ぐこともできる。トークンハウスで料理したり、トークンハウスが運営するカンボジア情報のサイトに記事を書いたりするとポイントが発行され、トークンハウスで利用することができる。ポイントはfever(https://fe-ver.jp/)というプラットフォームを利用している。

植木がこの活動にたどりついたのは、身近な人が鬱になったことが大きく影響している。
自分らしくないこと、自分が好きではないことを、「お金」のために我慢してやることこそ、そういった病の根源ではないかと考えた。そこで、独自ポイントを使い生活のセーフティネットを提供することで、人生の意思決定においての「お金」という制限を最小限にして、自分らしく生きる人、新しいチャレンジをする人を増やそうという考えだ。

スキルよりも価値観
トークンハウスの開始を10月に発表したところ、複数のメディアに取り上げられた。また、平尾や植木のフォロワーがtwitterでシェアし、広く拡散した。その結果、スタートしてすぐに100名の申込者があったという。

コミュニティに参加するには審査がある。審査に通過した人が毎月10名ずつ招待されている。現在所属しているメンバーは、ブロガー、エンジニア、動画クリエイター、コンテンツプロデューサー、料理人など。IT系に強く、場所にしばられずに仕事ができる職業の人たちだ。大家としてトークンハウスを管理している人もおり、その人には250TKCが付与される。
現在コミュニティメンバーは20名。審査の基準は非公開だが、スキルの有無というよりは、価値観が近い人を仲間として増やしていくという。

生まれる新たなプロジェクト
多様な職業の人が集まることで、新たなプロジェクトも生まれようとしている。
ひとつは、カンボジアで病院を運営している特定非営利活動法人ジャパンハートのプロモーションである。ジャパンハートは「医療の届かないところに医療を届ける」をミッションにかかげる国際医療組織だ。無料で治療を受けることができる。カンボジア、ミャンマーやラオスに寄付とボランティアで病院を運営している。

ジャパンハートの病院に給食センターを作るため、日本からやってきた料理人が、コミュニティのメンバーになったのがきっかけだった。カンボジアの観光情報を掲載するメディアなども運用しているということもあり、あまり日本で知られていないジャパンハートを、トークンハウスのブロガーや動画クリエイターが中心になり、より多くの人に知ってもらうコンテンツを発信しようという計画をしている。また、カンボジアのサッカーチームのプロモーションの話などお寄せられているという。

ベトナムにはすでにITに強い人が多数いるが、カンボジアはまだ少ない。トークンハウスには多様なIT分野の人が集まっている。それがカンボジアでトークンハウスのオープンイノベーションの源になっており、プロジェクトを進める上でのアドバンテージになっている。
(了)




