
TSUTAYAの進化~書店の進化系をつくっていく
公共と民間の在り方が注目されている昨今、とりわけたくさんの人が集まる場所として注目されている図書館。佐賀県武雄市図書館の企画、運営に取り組んだ官民連携の先駆者ともいえるカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC) 公共サービス企画 カンパニー社長 髙橋聡氏にお話を伺った。
日本の本の文化を受け継ぐ、それが使命
TSUTAYA事業、蔦屋書店事業、TカードとTポイント事業など、さまざまなライフスタイルを提供しているCCC。なかでも「本」に特化した事業には強い思いがあります。CCCグループとして書籍販売数は他社を抑え現在日本一。しかし全国的に書店は減少していて、人々が本に接する機会は今後ますます減っていくと危機感を持っています。
日本に本の文化を残すことに大きな使命感を持ち、本に関わる事業に力を注いでいます。TSUTAYAとして、そして蔦屋書店として進化系書店を全国に広めてきた経験と実績を基に、地方の官民連携施設事業に携わることになりました。現在図書館事業が5施設、公民館事業が1施設ですが、地方都市で本の文化をつないでいくための事業は今後も継続します。
本を生活の場に取り入れるという提案
CCCは単なる書店ではなく、スターバックスと提携してBOOK&CAFEを展開しています。本を売るだけでなく、そこで過ごす「時間」を楽しんでもらえる空間を提供し、滞在型書店の進化系を目指していて、都市部を中心に大きく広がっています。
代官山 蔦屋書店では本の品揃えを充実させつつ、聴きたい音楽や観たい映画に出会えるフロア、珍しい文具に出会えるフロアなど「生活を楽しむ」をコンセプトに多数のアイテムを揃えました。またGINZA SIX内の銀座 蔦屋書店は「アートのある生活を提案する」をコンセプトに心ゆくまで本を楽しめるスペースを提供しています。
CCC初の官民連携事業「武雄市図書館」
武雄市は福岡や長崎から1時間以上もかかる人口約5万人の地方都市ですが、2013年4月図書館のリニュアルオープンの影響で町は劇的に変化します。当時の市長から「武雄市に代官山
蔦屋書店を持ってきてほしい」とオファーがあったのがきっかけです。行政と連携し、サービスの企画から空間設計、運営まで全て担う事業はこれが初となりました。
築14年の建物の外観はモダンでしたが、内装は書架が並ぶ従来型の図書館なので内装デザインを一新しました。図書館でありながら、本を販売しカフェを併設したBOOK&CAFEスタイルを取り込んだ官民複合施設です。官庁室、職員控室など管理側のスペースを圧縮して壁をなくすことで300坪だった図書館は約500坪に広がりました。イベントで市民が活用できるスペースを提供するなど利用者目線の図書館づくりができました。
インバウンドの取り込みにより武雄市発展に寄与
図書館リニューアルの結果、来場者が大幅に増え、図書の貸し出し数も増えました。驚いたのは、利用が市民だけにとどまらず、休日になると県外からの利用者、さらに毎朝バスで多くの外国人観光客が来館することです。インバウンドの来館者数はリニューアル前と比べて約10倍になりました。Instagramに次々とアップしてくれるので、台湾、中国、韓国、タイなどから多くの人が訪れるようになりました。
インバウンドの影響で武雄市には大型の商業施設や飲食店が立ち並び、5万人の町にもかかわらず2店舗目のスターバックスコーヒーができました。リニューアルから6年間で町は大きく成長したのです。この事業にはCCC社員11人がスタートから移住し、「武雄が第二の故郷」と言うほど並々ならぬ思いで臨んでいたので、インバウンドの増加が図書館の影響であるならば、街づくりの一端を担えているのではと非常にやりがいを感じています。
5館の図書館事業と1館の複合施設事業のコンセプト
毎回スタートからその土地に移り住み、街に溶け込んで事業を進めることをポリシーにしています。社員スタッフが一丸となり企画段階からスタートまで集中して取り組むので数を手掛けるのは難しい状況ですが、1県に1図書館を目指しています。市民に寄り添い、それぞれの地域に根付くコンセプトで企画運営を進めていて、例えば宮城県多賀城市の市立図書館では、震災で離れ離れになった家族、みんながまたつながろうという思いで、「家」をコンセプトに取り組みました。
また、現在運営する中で唯一の図書館でない、複合施設が宮崎県延岡市の「エンクロス」です。ここには図書館はありませんが、地域物産店、待合所、キッズスペース、キッチン、BOOK&CAFEなど市民が集う場所を提供しています。市民の発表の場所になっていて、CCCが講師と利用者をつなぐコーディネーターの役割も担っています。実現しようとしていることは場の力を最大限に活用することで、一番の特徴は市民活動の場であることです。
今後人口の減少とともに地域力の低下も懸念されますが、多くの市民同士が関わり地域力が育まれれば、地域力はキープもしくは微増できると考えます。行政に依存ではなく、自分たちで幸せをつかめるようなコミュニティ形成の基礎となることを目指します。
満足度や来館者数を支える5つの特徴あるサービス
1.年中無休で9:00~21:00の開館にこだわる
通常より開館時間が長く、年中無休にこだわる理由があります。受験生の利用者は多く、お正月でも開館前には長蛇の列ができます。また正月休暇で地元に戻った旧友たちの再会の場所として地元のコミュニケーションづくりにも一役買っています。
2.シンボルとしての官民連携BOOK&CAFEの存在と図書館の魅力化
アンケートで一番欲しいサービスに必ずカフェが上がります。そして、続く図書館の魅力化では1位2位に上がるのが文庫本と雑誌です。雑誌を増やすと蔵書購入予算が肥大化しますが、館内のBOOK&CAFEでは雑誌を自由に読むことができます。
3.滞在型図書館をコンセプトに設計運営する
図書館機能は「利用者が自由にスペースを使う空間」へコンセプトを変換します。勉強する学生、読み聞かせをする家族、イベントに参加する人、カフェでコミュニケーションを取る人と、利用者が自由に利用方法を決める考え方です。実際1人平均120分~160分の利用があります。
4.イベントを積極的に誘致
イベントには力を入れていて、スターバックス社とコラボした講習会、著名人の講演会やライブ、朝ヨガやマルシェなど、都会と変わらないイベントを提供しています。
5.直感でわかりやすい図書のジャンル分けを実現
日本十進分類法は95%の図書館が採用している極めて検索性の高い分類法ですが、図書館を利用したことがあまりない方には馴染みがないのが難点です。図書館を利用しない人でも使いやすいように生活に密着した内容の本については一般的な感覚のジャンル分けを目指します。

これからの図書館の役割を考える
図書館の役割を歴史的にみると当初は識字率や学習意欲の向上のためでしたが、高度成長期に入り専門知識を高める場所、個の力を向上させる場所に変化します。社会の多様化、情報収集の多様化により、豊かさの価値観も変化し「次の図書館のステップは何か?」を模索する時代に入りました。
図書館のネクストステップ、サービス提供とは何か。自己実現欲求、コミュニティ発展欲求のために図書館が存在することが求められる時代となると考えます。どんな自分になりたいかの欲求を満たす発見性、またコミュニティ発展要求を補足するための場の提供が今後求められる役割と捉えてチャレンジしていきます。