
公共空間のリノベーションが街を変える
日経BP社・日経エレクトロニクス編集部記者を経て、横浜市議会議員を3期10年務めた経験を活かし、公共と企業の間をつなぐさまざまなサポートを提供している、伊藤大貴氏に公共空間、主に公園のリノベーションによる街の再生について伺った。
Park-PFIで地元経済を循環させる
2007年から横浜市議会議員を務め、都市公園法を地方に実装したいと取り組んできました。都市公園法は2017年に改正され、Park-PFI制度(公募設置管理制度)が制定されました。民間との連携により、市民生活の充実につながるビジネスを展開しながら、市民の満足度を上げていこうというのがこの10年間の大きな流れです。

企業はホテル、飲食、グランピングなど、公園施設で得た収益を、公園内の付帯施設の整備に充てます。そのかわり、設置管理許可の期間を20年に伸ばしたり、従来は法律で定められていた建ぺい率を最大10%まで自由に定められたりと、いろいろな規制緩和が行われています。
実は、政治の世界では「PFI(Private Finance Initiative)」という言葉は評判が悪く、「地元経済に回らないのではないか」「企業に儲けさせていいのか」という声が必ずあります。「地元に経済が循環する仕組み」がPFIの要旨なのですが、ネーミングとしてはわかりにくかったのかもしれません。

パブリックを担う意味とは?
自治体行政の中でも財務部門と企画担当の政策局、公園管理部門とでは抱えている正義が違います。それぞれのセクションの内情がわからないために、企業はどういう順番でどこへ話を持っていけばいいかわからず、頓挫するケースもあります。
また、「公共を担う」ことを理解できていない企業が多いようです。以前、ある大きな都市公園に飲食やエンターテイメントなどの大型複合施設を作りたいという事業相談を受けました。センスのいいキービジュアルと事業スキームで、消費者視点でとても魅力的でした。しかし、発災時の防災機能や騒音問題、ゴミ、近隣商店街との関係性、移動や交通の問題などが事業スキームに盛り込まれていません。企業の経済活動が優先されて、パブリックを担うという感覚が抜け落ちていたのです。そこをケアしないと、結局民間に任せてはうまくいかないという批判が起こる可能性があります。
やはり、パブリックセクターとプライベートセクターのコミュニケーションが非常に重要になります。多くの企業が、自分たちのサービスを事業として展開しながら、公共性を持って自治体のお手伝いをしたいとしながら、「公共を担う」ことの意味がよくわかっていないのです。
公園再生で復活するニューヨーク
9.11直後にニューヨーク市長に就任したブルームバーグにより、ニューヨークの都市空間は劇的に変化しました。就任中の10年間で観光客数は500万人から1140万人に増え、ホテル稼働率は10ポイントアップしました。
「ブライアントパーク」はマンハッタンの中心部にある公園ですが、2000年代初頭は非常に治安の悪いエリアで、日中でも近寄れない場所でした。そこで、日本でいうPark-PFIの仕組みを使って、公園を不動産に位置づけ、企業のビジネスを認める代わりに、収益の中から公園の再生やランニングコストなどを負担してもらいました。公園の価値が上がると周辺の不動産価値も上がり、テナントが集まり、テナント料から維持管理費を出してもらうというポジティブなサイクルが回わるようになりました。現在は公園単体で年間20億円の収益を上げています。80人のスタッフはこの公園のホームレスだった人たちで、お金の循環が雇用まで生み出しました。
また、高級ハンバーガー店「シェイクシャック」は、「マディソンスクエアパーク」の再生を目的としたアートイベントに、マンハッタンの有名レストランがホットドッグカートを出店したのが始まりです。公園内で野菜を作り、オーガニックブームや市民活動を巻き込みながら、行列ができるまでになり、全米に展開されていきました。 ブルームバーグは、民間資本を入れ、公園は都市の中でポテンシャルを持っていると気づかせ、お金が回ることを見せました。「ニューヨークだからできる」という人もいますが、テロ直後のニューヨークを思うと、公園を使った都市再生のインパクトの凄さがおわかりいただけると思います。
日本の各地で始まっている再生の試み
ニューヨークとは仕組みが異なる部分もありますが、大阪城公園、南池袋公園、沼津市のINN THE PARK、など、日本でも少しずつ取り組みが始まっています。
渋谷区の神泉児童遊園地は、東急グループ・東急電鉄が全て資金を出して再生しました。隣接している建物を東急電鉄が購入し、レストラン、物販、宿泊施設を整備して、周辺の価値を上げています。大規模な渋谷再開発を推進している東急だからこそ、駅の周辺にある小さなエリアをきちんと再生していくことが重要であり、自分たちがやる価値があるとのことです。
では、ニューヨークのようなポジティブなサイクルを日本で作ることは可能でしょうか? 近いものとして、BID(Business Improvement District)という仕組みがあります。
近隣の不動産価値が上がったら、それを街づくりに投資させるというスキームですが、現在の日本では、投資できる対象がベンチの整理や掃除といったレベルにとどまっています。もう少しマネタイズができる仕組みにしていけば、アメリカのようなサイクルを作ることができるのではないでしょうか。さらにアメリカの場合、公園に近いところと、公園から1キロ離れたところでは税率が違います。つまり、公園から近い人は公園の便益を受けているので、それに見合う税金を払うという仕組みです。日本にはまだハードルが高いようですが、大きなお金が回らなくても、日本の地方都市でできる再生の方法があると考えています。

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伊藤氏は、地方議員・公務員の人材バンクの会社Public dots & Companyを立ち上げ、プロジェクトに最適な人材をマッチングすることで、社会課題の解決を支援している。また、『日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編』(北川正恭・伊藤大貴監修、日経BP社)では、今後10年間で日本の都市はどうなっていくのか、「従来の総合百貨店型の地方自治体モデルは行き詰まり、オープン化していくだろう」を官公庁のデータから分析している。

講演後の質疑応答では、地方の可能性や、民間企業出身の議員が果たす役割・価値について議論が行われた。伊藤氏は「従来の天下り官僚ではなく、社会にバリューを出せる人材がたくさんいるということを可視化したい」と熱く語った。