ローカルメディアとしてのチラシの仕組みと活用法を探る

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チラシ(新聞折込広告)の強みは何か。新聞に必ず入っているチラシという身近なメディアの奥深さを、折込広告文化研究所 代表の鍋島裕俊氏に語ってもらった。折込広告史から、チラシの仕組み・種類・イノベーション、将来展望まで整理することで、新たな活用法が見えてくる。

江戸時代の「引札」から始まった新聞折込広告

江戸時代から明治後期まで続いた手配りの「引札」が折込広告の祖先で、新聞が大衆に普及した大正時代中頃に新聞に挿んで入れる折込広告が誕生しました。当初は新聞付録や挿し広告という形で、百貨店、メーカー、国や県の広報、劇場の告知広告などがありました。

手配りの引札
新聞に挟み込む折込広告

韓国でも日本と似通った形でチラシを配布していて、20年くらい前に東亜日報関係の折込会社ができました。ただし、紙の新聞の普及率は14~15%で、スーパーマーケットや塾、不動産などに業種が限定されています。

アメリカは新聞に20種類くらいのチラシがセットされたものが届きます。毎日ではなく日曜日に限定され、ウォルマート、ターゲットなどのクーポン関係が多くなっています。新聞社に折込セット工場があって、新聞にセットして、ひもで綴じられます。

ダイレクト・マーケティングにおける一番有効な広告媒体

日本の折込広告は、新聞社、広告主、折込広告会社、新聞販売店、読者によって成り立っています。広告会社あるいは印刷会社が広告主の窓口になりますが、折込広告会社はどの地域にどの広告を出せば効果的なのかというマーケティングのノウハウとGISのソフトを持っているのが強みです。

折込広告が読者に届くまでには、まず広告主が広告計画(販促計画・メディア計画)の中で、印刷会社と広告制作計画(ビジュアル・コピー等)を決め、折込広告会社はそれと並行して、広告配布計画(配布計画立案・配布部数・新聞銘柄)を決め、折込配布明細を入力します。印刷会社から折込配送センターへチラシが納品され、折込配送員が集合し、伝票確認と広告の積み込みを行い、新聞販売店に配送します。チラシの納品は、首都圏の場合、折込日2日前の午前9時までに指定の配送センターに納められ、折込日前日の早朝に、各販売店に納められます。販売店でチラシが新聞に挟み込まれ、新聞と一緒に読者に届けられます。

つまり、折込広告は各新聞販売店の戸別配達をベースとして、日刊紙の朝刊と同時に毎朝家庭に配達される広告媒体です。広告主は、各新聞の読者特性と販売店単位をベースにエリアセグメントすることにより、そのターゲットに向けた明確な広告戦略を立てることが可能です。日本ではダイレクト・マーケティングにおける一番有効な広告媒体であると言われています。また、折込広告は、戸別配達を維持するための新聞販売店の重要な収入源となっています。

折込料金は都内で1枚当たりの単価がB4判3.30円、B3判4.50円なので、1万枚撒けばB3判で4万5000円、印刷料金も同じくらいかかるので、9万円くらい予算が必要になります。折込料金は地域ごとに新聞販売店が申請し、県単位の同業組合で価格を決めています。

なぜ自分の家に折込広告が入ってくるのか?

日本の折込広告が維持されてきたのは、エリアマーケティング(GISの活用)によります。広告を行う企業は、商品・サービスを買う・受けると想定する消費者が住んでいる地域を選びます。国勢調査のデータを基に確率(効率)を考え、対象者がいる比率の高い地区を選ぶ道具がマッピングシステムで、だから自分の家に入ってくる折込広告は選ばれて入ってきているのです。

GISはカーナビの地図の上に統計データ等を重ねて見ることができるシステムであるとご想像ください。国勢調査等の既存の統計データを背景にして、広告主所有のデータをオーバーレイ表示することにより、周辺エリア内で強いターゲットはどこか、さらに、そのエリアのデモグラフィック的な要因として、どのような特徴を持ったエリアなのかを知ることが可能です。

50代以上の新聞読者に合わせてチラシも変化する

「NHK国民生活時間調査」によれば、男性の30代は1975年に80%も新聞を読んでいましたが、2010年には23%しか読んでいません。中央協調べでは、全国平均の無購読率は21.2%ですが、20代が35.5%、30代が41.9%と若年層の新聞離れが顕著です。

新聞の部数のピークは2003年くらいですが、折込広告は2006年がピークで、下降傾向にあります。新聞の普及率(世帯到達率)は5割から6割で、読者は50代以上になっています。

折込広告は読者層に合わせて、その内容も変わってきています。地域におけるスーパーマーケット、ホームセンターは今までどおりですが、フィットネス関係、健康関係、終活、マンション、ケアホーム、病院、墓石などが増えています。

折込広告の課題は、新聞読者の変化だけではありません。スマホ利用者の拡大とSNSの浸透、パーソナルメディアの台頭、消費低迷と折込広告利用クライアントの売り上げ減少、さらに新聞の電子化、新聞販売店の減少(配達力の弱体化)などが挙げられます。

折込広告のイノベーション

折込広告のイノベーション事例としては、サンプル付き折込広告があります。ただし、制作費が高価なため、大手メーカーのみが可能で、普及は困難です。

AR(拡張現実)を利用した折込広告もあります。紙のチラシにマーカーを入れて、スマホかタブレットで読み取ると、立体的なものや映像が出てくる仕掛けです。また、スクラッチ付き折込広告も利用されています。

さらに、デジタル印刷による折込広告の注目度を高める提案もあります。可変情報(シリアルナンバー)をチラシに印刷し、各種販促や集客ツールとして活用するものです。新しい集客の仕組みと、効果の見える化が注目されています。

紙の折込広告のターゲットは50代以上で、新聞販売店がポスティングにも対応するようになったので、ポスティングを併用して地域を絞り込んで投下することができます。

折込広告会社は地域ローカルメディアの立ち位置で、地域に根ざした情報を提供し、地域の人が必要と思うものを載せられるようなものを作ることで、地域に貢献すべきでしょう。新聞販売店も地域の役に立つようなビジネスをやらない限り、活路はないでしょう。

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講演後は、地域起こしの観点からの地域メディアの重要性や、地元の折込会社とエリアマーケティングを行う有効性、配達地域指定郵便物の利用法、SNSのセグメント広告の利用法など、活発な意見交換がなされた。議員としての活動報告にチラシを利用する立場から、「手にとってもらうにはどうしたらいいのか」という質問には、「折」が重要で、チラシを覆う一番上に入れてもらう、紙質はマットコートであまり滑らないようにするなど、専門家でなければわからないコツが伝授された。

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