確定申告から政治資金まで、クラウド会計で楽して効率化

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行政手続きはデジタルトランスフォーメーションで大きく変わろうとしている。関連手続きのすべてをポータル経由で一括(ワンストップ・ワンスオンリー)申請でき、デジタル完結する世界はそこまで来ているのか?
freee株式会社の社会インフラ企画部長の木村康宏氏から「行政手続きDXの目指すべき姿」を伺い、会計ソフトfreeeを使った「政治資金クラウド」について、特定非営利活動法人ドットジェイピーの関信司氏が紹介した。


バックオフィスの生産性を高めることが重要

木村:中小企業と大企業の生産性は、1人当たり付加価値額で2倍前後の差があります。特にシステム化ができるバックオフィスの生産性の差が大きく、従業員1人当たり経理人数では5倍以上の差になりますが、経理業務の7割以上は自動化が可能なのです。

2012年設立のfreee株式会社は、クラウド型バックオフィスサービスの開発・販売を行っています。経理担当者が同じデータを3回くらい別のソフトに入れているのを見た創業者が、生産性を上げるために会計ソフトを作ろうと思ったことが、当社の始まりです。

クラウド会計ソフトfreeeの機能としては、銀行口座やクレジットカード明細、業務システムなどのデータを自動取得し、人工知能で仕訳に変換するので、予測された仕訳を確認し、クリックすれば登録完了です。同様の取引が発生したら、自動登録するようルール設定できます。請求書・領収書を各社員がスマホ撮影でfreeeに取り込むと、freeeが読み取り勘定科目や日付、金額を自動で補完します。仕訳に証憑データを紐付けすることができ、証憑と仕訳の内容照合も簡単に行えます。タイムスタンプの付与など電子帳簿保存に対応しており、証憑原本の保管も不要になります。

また、「確定申告の書類診断 by freee」は、LINEのトーク上で質問に〇×で答えるだけで確定申告に必要な書類を教えてくれます。パソコンで業務ソフトを使うのはハードルが高くても、LINEなら最初のハードルが突破できます。コンシューマーは簡単なサービスに慣れすぎているので、業務ソフトも行政サービスもコンシューマーに合わせるしかありません。

 

一度デジタル化しても、重複手続きが生産性を下げる

木村:従業員に関する社会保険手続きは、年末調整を例に取ると、申告書を従業員に配布して、記入後回収し打ち込んでいました。freeeなら各従業員のスマホから入力してもらい、集めた情報を元に自動計算して電子申告が可能です。所要時間は従来の5分の1まで圧縮できます。

ところが、電子的に年末調整を終えても、住民税の通知書は紙で届き、自治体ごとに様式が違うものを手入力で、freeeへアップロードすることになります。毎月の住民税を支払うには、自治体から送られてくる納付書を銀行窓口に持参しなければなりません。超低金利の中で、どの銀行も紙のオペレーションコストだけが残る公金の扱いはしたくないと考えていて、直近では三菱UFJ銀行が自治体の指定金融機関を返上しました。

また、従業員の住所変更なども、同じ書類を年金事務所やハローワークなど複数の役所に提出する必要があります。一部はマイナンバーに連携していますが、健保などは追いついていません。

会社設立の手続きでは20種類以上の書類が必要ですが、「会社設立freee」なら、ガイドに沿って必要な情報を一度だけ入力すると、各書類が自動転記で作成できます。ただし、どうしてもオフラインでやらなくてはいけないものは制度的にあって、それが、印鑑届と定款認証です。印鑑届は義務で、印鑑をなくすことには反対意見が多く、定款も相手の目を見て反社会的勢力ではないか確認しないといけないということで残っています。

簡単であることは「できれば」という問題ではありません。貧困層や病気がある人に、申請書を書かせて、役所に持って行かせることは、物理的にできるかどうかではなく、本当に高いハードルになっています。給付予算があっても、手続きができないなら予算がないのと同じことです。簡単であることは決して「贅沢品」ではありません。十分に簡単な手続きは、「人権からの要請」として本当に必要なことです。

 

手続きや提出行為自体をなくしていくことが重要

木村:どの国民、どの法人も自分が何者かであるかを電子的に証明できて、関連手続きはポータル経由で一括(ワンストップ・ワンスオンリー)申請可能で、申請後の納付まで含めてデジタル完結する世界が、行政手続きのあるべき像です。

 

行政が用意するインターフェイスは万人が使えるものであるべきです。若い人に使いやすいとか、担当者にとって使いやすいなどは、民間サービスの領域になります。民間サービスから行政にアクセスしてもいいし、行政から直接手続きしてもいいし、普段使っているサービスから行ってもいいでしょう。

重要なことは国民が簡単に手続きができること、行政手続き内でワンスオンリーが実現されればOKではなく、社会全体で二重手続き・重複徴求を排除することです。

例えば反社会的勢力の情報では、警察保有情報へのアクセスは限定的かつアナログです。法人登記プロセスでは、公証人の反社チェックが法務省令で義務付けられていますが、銀行によるチェックと重複しています。

決算・申告情報は毎年国税庁に必ず提出されるので、政策効果分析にも活用可能なはずですが、目的外使用になるので死蔵されています。決算公告の実施率は数%ですが、申告情報を使って電子公告をしてしまえばできることです。

行政手続きは申請主義で、国民がコミットするから効力があるわけで、申請したという形をつくる必要はあります。しかし、国民がデータを集め計算し所定の書式に落とし込んで提出するということにこだわる必要はありません。データは既にあるのだから、行政がデータを集めて、国民の確認・承諾を経てということもできるはずです。「手続きを簡単にする」から「なくせる手続きはなくす」、ワンストップにとどまらずノンストップ(完全自動化)を目指すべきです。

IT調達改革では、政府のIT調達の一元化、コストカットだけでなく、その結果重複投資を洗い出して、無駄になっているところをなくしていくことです。電子政府全体の最適化を目指して、政府全体のアーキテクチャーを見るCIOやCTOが必要です。

デジタルトランスフォーメーションを本当に実現するには認証手段の普及が最も重要な土台となります。商業登記電子証明書の無償化・強制配布、マイナンバーカード保持の努力義務化が望ましいでしょう。

「受益者負担の原則」による従量課金ではユーザーは増えないし、ユーザーが増えないからシステム投資のコストパフォーマンスは低いままの悪循環・縮小均衡モードとなります。まずユーザーを増やすために、「受益者負担」の発想を捨てて、開放することです。

デジタル化の議論では「取り残される人はどうするのか」「高齢者・弱者を切り捨てるのか」となりますが、印鑑証明の議論でもわかるように、基本的にデジタル化サイドの主張はデジタルの手続き「も」認めましょうということです。デジタル化はアナログ排除ではないこと、誤解をしっかり解く必要があります。

 

「政治資金クラウド」で政治資金収支報告書をデジタル化

:「政治とカネ」の問題の解決を目指すプロジェクトは、NPO法人ドットジェイピーのアイデア「クラウドで政治資金の流れを透明化」が、Googleインパクトチャレンジの助成金を受けたことをきっかけに本格化しました。

政治資金収支報告書は、会計責任者が総務省会計ソフトを利用して作成して、書面で総務省か都道府県選管に提出しています。そして、半年後に、総務省と30の都道府県がスキャンしたPDFがWeb公開されています。そのデータを朝日新聞、読売新聞、共同通信、NHKが日本中から集めて、それぞれ独自にデータベース化して、記者が活用しています。

一方、アメリカでは連邦政府が各収支報告書をクラウドのソフトに登録させるようにして、48時間以内に有権者が見えるように情報公開しています。

総務省オンライン申請システムにEXCELデータをアップするオンライン申請の利用率は1%以下で、99%以上が紙で公開される中で、セキュリティーを理由にこのデータは公開できないというのです。そこで、総務省オンライン申請システムのデータ規格をオープンにして、外のシステムで作ったものでも登録できないか交渉してきましたが、全然進んでいません。そんな中、企業会計用のfreeeを使って政治資金会計の業務を可能にするクラウドサービス「政治資金クラウド」ができました。

 

「コンプライアンス体制」を支援する

:リスクマネジメントの基本的な考え方として、リスクの発生そのものを抑制する対策と、問題が発生した場合の影響を最小化する対策があります。

政治資金におけるリスクには、法令に違反するリスクとして、①会計担当者が意図的に違法な資金操作を行うケース、②担当者の法令の理解や経験が乏しいことで意図せず法を犯すケース、③献金を行った側に問題があることが後に判明するなどの外部要因ケースがあります。これらのリスクに対しては、不正やミス、事故が発生しにくい「コンプライアンス体制」の整備が課題になります。

もう一つ、法は犯していないが、倫理的な観点から批判されるリスクがあります。政治資金の使途に対する認識が社会通念と乖離するケースでは、使途ポリシーを明確にした「内部規正」を設けて、事前に公開しておくことが大事です。

「政治資金クラウド」は「コンプライアンス体制」を支援するものです。リスクの発生を事前に抑制する仕組みとして、政治家と秘書の情報共有、内部監査プログラム、複数団体の経理の一元化が挙げられます。また、リスクが発生した場合の影響を最小化する仕組みとして、複式簿記を採用することで、より透明性をもって政治資金の把握ができ、問題があって情報開示する際にも有効なツールになります。

 

 


プレゼン後の意見交換では、「経済産業省「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」(2018年9月)を受けて大号令が出ている」「人権の問題などへの配慮は重要」「リスクはあまり問題ではなく、業務量を少なくすることが要望」「総論は賛成でも、既得権などもあって各論では進まない」などの意見が出され、電子化を前提とした法整備などの必要性が確認された。

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