「伝統と革新」が忘れられないブランドをつくる

フィスカースは、フィンランドで1649年に創業し、世界的に有名なライフスタイルブランド(Fiskars、Wedgwood, RoyalCopenhagen, Iittala, Gerber,Waterfordなど)を複数有する消費財のグローバルリーディングカンパニー。人々のライフスタイル全般を豊かに彩ることをミッションとしている。フィスカース ジャパン株式会社でマーケティング本部長の福田強史氏は、日本においてもこれらのブランドは長く愛されているが、積極的なダイレクトマーケティングで昨今さらにファンを増やすことに挑戦している。

 

目に見えるベネフィットだけでは通用しない業界

フィスカースに入社前は、外資系大手IT業界で20年弱キャリアを積んできました。その中で、直接の上司になった外国人は、アメリカ、イギリス、カナダ、スリランカ、オーストラリア、南アフリカ共和国と様々でした。

現在の上司はフランス人で日本が堪能なので言語の苦労はないのですが、各ブランドの本社メンバーと仕事をする際は、言語はもちろん、生活スタイルやリズムの違うという前提が違います。いかに商品・サービスをローカルの方法に最適化した方法で提供するのかを理解してもらうのがとても大変です。

フィスカースの日本法人では、ウェッジウッド(Wedgwood)、ロイヤル コペンハーゲン(Royal Copenhagen)、イッタラ(Iittala)、アラビア(ARABIA)などのブランドを展開しています。

ウェッジウッドはイギリス王室御用達で、今年が創業260周年です。またロイヤル コペンハーゲンは1775年にクリスチャン7世国王とユリアナ・マリア王太后の援助によって創業され、こちらも244年という長い歴史がございます。

すべてのブランドの親会社であるフィスカースは1649年創業で、フィンランドで一番古い会社です。フィスカースが傘下に持つブランドの年数を全部足すと2901年にもなり、歴史の重厚感を感じます。会社のミッションはMaking the everyday extraordinary(毎日を特別なものにしていきましょう)、従業員は30か国で約8000人、製品は100か国以上で発売されています。

消費者は、モノを買うときに何らかの基準をいくつか持っているものです。その基準になるのは、例えば、価格、機能、デザインなど色々とあるかと思います。私が長く在籍したIT業界では、特に機能、利便性、生産性向上など、数値に測れるベネフィットを中心において戦略を立ててきました。一方で現在の仕事は、食器であっても、カップであっても、食事を盛り付ける、飲み物を飲むといった機能は他社製品と同じなので、単純な比較はできません。

例えば、インターネットでマグカップと検索すると多数の商品が瞬時に出てくる時代に、ウェッジウッドやロイヤル コペンハーゲンをいかにしたら購入いただけるのか、どうしたらお客様に価値を認めていただけるのかを深く考える必要があります。

 

ブランドの生き残りは「伝統と革新」

ブランディングとは、あるカテゴリーで顧客が購入意思を決定するプロセスを最大限シンプルにすることです。

つまり、ブランドイメージ&商品USP(ユニークセリングポイント)と、消費者のニーズ(本当にどこまで必要か、なぜ必要か)の重なる部分を最大化することで、そのブランドは多くのファンを獲得できます。

コカ・コーラの工場がある日突然火事でなくなっても、あのロゴさえあればいくらでもやり直しがきくと、ある幹部が話をしていたのを聞いたことがあります。顧客の記憶から消えたら作れなくなりますが、あのロゴがあるからやり直しがきくということで、これこそまさにブランド資産です。

一方で、そのブランドも顧客にブランド体験させることをきちんと継続してやっていかないと、いつか忘れ去られます。一番残念なことは嫌われることではなくて、忘れ去られることです。顧客の生活の中に常に入っていかないと、いつか忘れ去られることになります。

ブランドそのものに安住しないで、顧客の生活の中に入っていく、顧客と生き続けること。ブランドが時代を越えて、生き残るキーワードは、「伝統と革新」なのです。

伝統といえば、243年前から、ロイヤル コペンハーゲンの製品には、王冠と3本の波線のマークと、ペインター(絵付け職人)のサインが入っています。マークは王室との関わりと、デンマークを囲む3つの海峡を現しています。「ブルーフルーテッド プレイン」は変わらぬ技法で創業時からデザインを継承しており、これは現在も変わらぬロングランとして顧客に愛され続けております。全てがハンドペイントで一点物。これは現在も変わらず、継承されている伝統です。(ロイヤルコペンハーゲンのロイヤルカスタマーは、サインでペインターを確認して買っていかれる方もいらっしゃいます。)

一方で時代の変化に合わせながら、その原点のデザインを継承しながらも、商品ラインを拡大し、ブランドの安住することなく、ブランドの幅と奥行きを作りながら、時代を越えて顧客を魅了し続けております。デザイナーとのコラボレーションも早い段階から行い、ポートフォリオの拡充を充実させております。これらがまさに革新の部分です。

世界一豪華なディナーセット「フローラ・ダニカ」は、デンマークに生息する植物が収められた『フローラ ダニカ植物図鑑』を、ハンドペイントで器に忠実に再現したものです。ロシアの女帝エカチェリーナ2世に献上するための外交手段としても使われた当時の最新技術でした。このテーブルウェアが、小国デンマークの自然美と、それをテーブルウェアに描くインテリジェンスをまさに証明したのです。ローゼンボーグ城に現在も保存されていて、国の宝として一般公開されています。

 

日本ならではのライフスタイルブランド戦略を考える

日本版革新としては、みなさまにわかりやすく、商品軸、コンセプト軸、テクノロジー、顧客を知る、という4つで考えてみました。

ロイヤル コペンハーゲンの人気シリーズに「アルファベット マグ」があります。国によって対応する文字が違って、例えば日本ではPはありません。人気商品でしたので、顧客の生活シーンを考慮して、アルファベットマグだけでなく、アルファベットプレートも作るのはどうかと本社に提案し、長い交渉の末、日本限定で現在発売が開始され、大変ご好評をいただいております。

販売チャネルでは百貨店が主要チャネルであることは変わりないのですが、テーブルセッティングも、自分のライフスタイルにすぐ入るようなイメージでないと多くの購買にはつながりません。

そこで、自社の製品を体験させたいという軸と、フィスカースが持つ複数のブランドポートフォリオを活用するいう、2つの軸から『マルチブランドカフェ』というコンセプトを日本で立てました。

それが形になったのが、埼玉県飯能市にある北欧のライフスタイルが体験できる施設「メッツァビレッジ」内のコンセプトカフェnordics(ノルディックス)。季節ごとに提供される食器のブランドとそのブランド発祥地のローカル料理を提供するといったもので、顧客に常に新鮮な体験をしていただくことが実現いたしました。

ロイヤル コペンハーゲンによるデンマーク料理の提供は、10月から始まり2月28日で終了。3月2日からはアラビアの食器でフィンランド料理を提供します。そして、夏にはまたブランドを変えて、料理も変更する予定です。

博物館のように食器を飾っていても自分ごとになりづらいので、エクスペリエンスを提供し、生活シーンをイメージしてもらい、ブランドとして忘れられないようにしていくことが大事だと思っています。

ロイヤル コペンハーゲンの食器でデンマーク料理を食べる時間は、豊かな時間。食事と会話に集中して、まさにその瞬間を輝かしいものにしてくれます。これこそ、われわれのブランドが顧客に提供する価値です。百貨店でモノを売るだけではストーリーがありません。単純にモノを売るのではなく、顧客価値創造、価値訴求を図りたいのです。

「顧客を知る」という意味では、2017年には「ロイヤル・コペンハーゲン社のペインターによる絵付け体験ワークショップ」を国立公文書館で開催しました。親子で絵付けをした皿を、デンマークの工場で焼成するもので、まさに世界に1つのロイヤルコペンハーゲンを提供しました。高い食器だからもったいないと思われがちですが、物を大切にするという教育にもなるという素晴らしいフィードバックをいただけました。

去年の夏には、ロイヤル コペンハーゲンの丸の内本店で、好きなマグカップでトッピングを選べるかき氷を無料で食べてもらうイベントを行いました。3月には「週末の花屋さん」というタイトルで、ベース(花瓶)を購入する時に一番合う花をプレゼントすることもプランされてます。

 

ブランドが先ではなく、顧客にとっての価値を考えながら、変わることは変える、変えないことは変えないのが、生き残るためのブランド戦略になります。オールドインダストリーでもイノベーションは生まれるのだと思っております。

水を飲むだけなら世の中に安いグラスやカップはあふれています。そこをどう差別化するかが問われているのです。良いものを作っているからわかるはずだと、ブランドだから顧客は購入してくださるということに安住していては、生き残りはできません。時代とともに変化していく顧客に、価値を提供し続けるべく、伝統を継承しながら常に革新すること、このバランスがブランドが残っていくために最も大切で必要なことだと思っています。

 


講演後のディスカッションでは、IT業界に比べてデジタル化が遅れていて、インフラの改善が必要なこと、また、日本の顧客ともエンゲージメントをさらに深めるために、グローバルのガイドラインを守りながらも、日本人の心に響くようなメッセージングに気をつけていることなどが語られた。会場からは、陶器は日本発祥だが、有田焼きなどが苦戦していて、優れた技術があっても普及しないのは、日本が伝える努力をしていないことによると指摘もあがった。