つながり以上の価値を生む、コミュニティーのパワー

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ベンチャー企業の法務を中心に活動している法律事務所アルシエンの北周士氏は、弁護士向けの勉強会から「妻ラブ経営者・士業の会」といったユニークな会まで、複数のコミュニティーを精力的に運営している。今回は北氏にコミュニティーの構築について、そしてそこから生まれる価値について話を聞いた。


立ち上げのきっかけは「業界全体の底上げ」のために

現在私は弁護士13名の事務所に所属し、普段は主に中小スタートアップの顧問弁護士として活動しています。仮想通貨事業者のコインチェックが仮想通貨を流出させた問題では、企業側を訴えている弁護団の団長も務めています。またそのほかに士業(弁護士や行政書士など「士」のつく職業)の経営支援も行っています。これがある意味発展してコミュニティーにつながっているといえます。

最初にコミュニティーを立ち上げた目的は、弁護士全体のレベルを底上げすることでした。弁護士は労働集約型ビジネスのため、一人が受け持てる案件数には限りがあります。また案件内容の向き不向きや得意不得意もあるため、私の場合は依頼を受けきれずに別の事務所に外注することも多くありました。

それならば、業界全体のレベルが高いほうが、外注する側の自分にとっても安心して仕事を任せられるし、クライアントにとっても満足できる対応をしてもらえるため皆がハッピーになると考えたのです。そのためには経験豊富で高いレベルの人を見て学ぶことが近道になると思ったのがきっかけです。

 

SNS時代のさまざまなコミュニティーとは

現在運営しているコミュニティーはいくつかありますが、大きく分けて以下の3種類に分類することができます。

1:勉強・研究型

1つ目は、勉強や研究に結び付くものです。例えば弁護士関係のコミュニティーでは「弁護士が起業する意義」「紹介営業」などのテーマで開催し、外部の講師を招いて講演してもらっています。FacebookやTwitterで告知して、参加するのは同業者である弁護士のほか他士業の方、異業種の経営層など50人ほどです。ほかにもルールメイキングやロビー活動に関する勉強会もあり、それぞれのテーマで勉強会を開催しています。

Facebookのイベント機能を利用しているので参加者を研究会としてまとめれば、それでセミナーごとにコミュニティーができます。このタイプは立ち上げが比較的手軽で、集客しやすいのが特徴です。また参加者側から見てカジュアルに参加しやすいというメリットもあります。

自分にとって興味があるテーマを設定すれば、一流の人の話が聞けて、参加する人=テーマに興味がある人を集めてつながりを作ることができて、さらにセミナー参加費という収益もあります。自分の欲求を満たしつつ、その分野の人を集められるので効率が良い方法です。

弱点は、人を集めるためには運営側が継続的にコンテンツ(勉強会やセミナー)を提供する必要があることです。目的や方向性が同じわけではなく、テーマに関心がある程度のつながりのため、コンテンツの提供がなくなるとコミュニティー自体も終わってしまう恐れがあります。

2:交流型

2つ目は、純粋に交流すること自体を目的とした、もう少しゆるい感じのつながりです。私は「医師と士業の交流会」という、普段交流が少ない医療関係者と士業関係者のコミュニティーを運営しています。両者には意外と共通点も多く、交流すると新しい発見が生まれるのではないかという意図で企画したものです。1回に4~50人が参加するうち、固定メンバーも一定数いますが、その都度新規で参加する人も少なくありません。

このタイプは「弁護士」「医者」など属性を決めてしまえば、参加者を集めるのは比較的手間がかかりません。単純に「弁護士の交流会」といったコミュニティーもよいですが、できれば今まで縁がなかった人同士を結びつけると注目されやすくなります。その反面、強いつながりにはなりにくいという難しさがあります。人は集めやすくても、楽しく飲んでおしゃべりして終わってしまいがちです。ここから強いつながりにはなりにくいという弱点があります。

3:趣味嗜好型

3つ目は、「〇〇が好きな人」といった趣味嗜好型中心のものです。「妻ラブ経営者・士業の会」という愛妻家のコミュニティーを運営していますが、周りに同志があまりいない、いわばマイノリティを集めたほうが、コミュニティーのつながりが深くなります。

ほかには「ラブライブ!」という少女達がアイドル活動を行うアニメ好きのコミュニティーも運営しています。私自身はそのアニメを観たことがないのですが、周りにラブライブ!好きが多くいることに気づき、引き合わせてみたのがきっかけでした。

このコミュニティーでは他のタイプとは異なり、運営側がコンテンツを提供しなくてもアニメが進行するのに合わせて参加しているメンバーが自発的にイベントを立ち上げているのが特徴です。さらにみんな仲間を欲しがっているので、ラブライブ!が好きな人を見つけると積極的に勧めてくれます。

メンバーは自動増殖するうえ、コンテンツは外部から自動供給されるという、ある意味コミュニティーの完成形に最も近いといえます。運営側の負担も最も少ないタイプです。弱点は、あまり大規模にはならないことと、うまくいきそうなターゲットを選定するのが難しい点です。

全体的なまとめ

コミュニティーは立ち上げるのは比較的容易で、集客もそれほど手間がかかりません。FacebookやTwitterを使って告知できるほか、Facebook広告であれば数百円のコストで数千人にリーチできます。しかし、その分維持管理が難しいことに注意が必要です。ある明確な目標がある場合であれば、その目標が達成すれば終了してしまう。勉強会だと新規のコンテンツを提供しないと、または自動でコンテンツが提供されるしくみを構築しないと、どんどん人が離れてしまいます。

最近は「最近はコミュニティーの時代だ」「プラットフォームが重要だ」といった声をよく聞きます。有料会員制のオンラインサロンも人気で、タレントのキングコング西野亮廣氏が運営しているサロンは月額1000円の会費を支払う会員が1万8000人います。これだけの人数が常時会員となっているサロンは他にはなく国内最大規模です。ほかにもオンラインサロンがあちこちにありますが、参加者を維持することが難しく、一度参加してもすぐに退会してしまって、破綻してしまうのがほとんどです。

西野氏はコミュニティーの維持に力を入れていて、新規で入会してくれた会員に対して一緒に飲みに行ってコミュニケーションを図ったり、メンバーと一緒にイベントや新しい本の企画を立てて実現させています。そこからも、常にコンテンツを提供し続けることの重要性を感じます。

一方で、このようなコミュニティーまではいかなくても、もっと広範囲に弱いつながりを持った仲間づくりであれば、SNSは強力なツールです。私自身もTwitterのフォロワーが約1.2万人、Facebookの友だちが約5000人います。仕事上の知り合いや友人関係などSNSでつながることで共感してくれる人が増え、自分に協力してくれるようになります。例えば以前、訴訟の費用のためにSNS上で募金をお願いしたところ、わずか数カ月で820万円集めることができました。中には一度も会ったことがないのに数十万円も振り込んでくれた人もいました。

 

自分自身でコミュニティーを運営する意義

つながりを作るという目的では、従来から商工会や青年会議所、ロータリークラブなどがあります。新規のコミュニティーと比較するとこちらのほうが歴史も長く規模も大きい。何より組織的に維持管理をしてくれます。人との縁を広げる目的であれば、わざわざ自分でコミュニティーを作らなくても商工会等に参加すれば用は足ります。従来型の交流会ではなくSNSを通じて自身でコミュニティーを運営するのは、つながり以上の別の価値があるからです。

もちろん先に述べたとおり、維持管理の努力やコンテンツを提供する仕組みづくりを自分自身がやらなくてはいけない大変さはあります。しかし自分で立ち上げることで自分がコミュニティーの中心的なメンバーになれます。自分が望む形で明確な目的を設定し、達成するコミュニティーを構築できます。また何か具体的に自分がやりたいことがあったときに、メンバーから協力を得やすいという点も、自分で立ち上げる意義だと考えています。


講演後の質疑応答では、士業を支援することで、結果的により多くの人を助けることができると考えているという話が出た。また今後ITの進展により作業的なものはAIが代替するようになると専門家としての弁護士はどのような価値を提供していくべきかなど、自身の経験談や将来的な弁護士業の展望についても触れた。

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