対談:古川元久衆議院議員×ユーグレナ出雲充社長 ――創業者が明かす「ミドリムシでつくる持続社会」 極意は情熱にあり!? ――特別企画:ゼロプラMeetUP!×ユーグレナ(後編)

image_print

「ゼロプラMeetUP!×ユーグレナ 特別企画 オープンイノベーションでミドリムシ→バイオ燃料で地球を救う?」で行われた、古川元久衆議院議員と株式会社ユーグレナの出雲充社長の対談をレポート。

グリーンエネルギーに高い関心を持ちユーグレナ(ミドリムシ)の活用を推奨している古川議員と、ミドリムシの持つさまざまな能力に気づき、これを活用し食用以外へも用途を拡大している出雲社長が、立ち上げの経緯から、事業化、そしてその将来について大いに語った。

きっかけはバングラデシュ

――ミドリムシの事業を広げていくにあたって、これまでどういうふうに進められたかをお話しいただきたいです

古川:その前に、まず出雲さんがミドリムシのビジネスを始めたきっかけを僕は聞きたい。これから必要なビジネスとは何か、成功するビジネスとは何なのか、という原点にもなると思うので、大学のインターンから始まったという、あの話をぜひお願いしたい。

出雲:ありがとうございます。私は大学1年生の夏休みにバングラデシュに行き、そこで2006年にノーベル賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が設立した「グラミンバンク」で1カ月間アルバイトをしました。この銀行は、貧しい人の自立を支援するマイクロバンクです。

バングラデシュは最貧国のひとつと言われますが、1日3食、山盛りのカレーが出てくるんです。調べてみたら、日本の3倍のお米を食べており、米は自給率100%で、飢え死にしそうな人というのはいませんでした。しかし、新鮮な果物や牛乳、野菜、牛肉、卵などは何もなく、これによって栄養失調になっているのです。

このバングラデシュで見た栄養失調の人たちに元気になってもらいたくて勉強していくうちに、ミドリムシに出会い、この生物が作り出す栄養によって子供たちが元気になるということに喜びを感じました。

さらに研究していくと、ミドリムシにたくさんの品種があることが分かりました。ある日、とても大きく、変わった遺伝子を持ったミドリムシを発見しました。調べてみるとビタミンも、アミノ酸も、カルシウムもなく、太って脂しかないという種類でした。

「食べるにはちょっとダメだよね」と放っておいたのですが、2008年に新日本石油からこのミドリムシを「使える。いいじゃないか」と言っていただき、バイオ燃料の開発が始まったのです。

古川:ミドリムシって、食用以外に、バイオ燃料や水の浄化とか、用途がいっぱいあるんだよね。

出雲:はい。水の浄化でも活用されています。佐賀市の下水道処理の稼働率は100%超。つまり、処理しきれないで、そのまま海に流しているんです。有明海でノリの養殖をしている方たちがこれに困っていたのですが、予算がなく下水道処理施設は作れない。

そこで、水の中に含まれる窒素やリンを吸収してくれるミドリムシを、下水の前処理に活用しました。この結果、リンの9割を処理可能になり、水をきれいにして放流できるようになりました。

当社では、100種類くらいミドリムシを持っており、品種はそれぞれ異なる特性があります。このことから、研究すればするほど、社会のさまざまな場所でお役に立てる無限の可能性があることが分かってきました。

「ポスト平成」にピッタリ!

古川:このゼロプラでは「ポスト平成」というテーマで、次の社会がどうあるべきか、何を目指すべきかについて、皆さんの意見をうかがっています。

私は、そのキーワードを「持続可能性」だと考えています。そして「持続可能性」のある社会で、人が生きていくためには「食」「エネルギー」「環境」の三つが大事だと思っています。

出雲さんの話を聞くと、この三つをまさにミドリムシが、サステナブルにしてくれている。

出雲:古川先生がおっしゃった「食」「エネルギー」「環境」。ミドリムシというのは、本当にこれにぴったりなバイオテクノロジーです。そのぴったりなことは、昔からミドリムシがやっていたことなんです。

「食」でいえば、食物連鎖の底辺で、ミドリムシが栄養となって、それを他の生物が食べるという食の根っこにあたるものです。また、今ある「エネルギー」は、もともとはいろいろな生物の死がいが地層に堆積し、石炭や石油になったわけです。「環境」についても、ミドリムシが光合成を行い、また水をきれいにするといったこともしてきました。

ミドリムシは何百万年という単位で、社会の「食」「エネルギー」「環境」を支えており、当社では、これらをバイオでもっと時間を圧縮して役に立てられるようにしています。逆に言えば、これらをうまく使わないと持続可能な社会を作れないほど、人間社会が地球に与えるインパクトは大きくなり過ぎているということです。

古川:でも、ミドリムシって、食物連鎖のいちばん下にあるから大量培養ができないんだよね。

出雲:ホント、増えないんですよ。培養すると、すぐ他の微生物やカビ、酵母に食べられちゃうんで(笑)。

「ゼロからイチ」を生み出すのは?

――バイオ燃料は国の根幹を支えるエネルギーの話ですが、国の研究機関での研究開発は

出雲:ミドリムシに関しては、多くの大学で1980年代初めから基礎研究が続けられ、その研究成果の結晶が当社の技術となりました。2005年に会社を作って事業化したので、基礎研究開始からは約25年かかっているわけです。

今、それをどこでやるかというと、企業は株主からのプレッシャーで「早く儲けろ」と言われてしまうのでできません。可能なのは大学などの教育機関なんです。

アイデアを思いついて、それをすぐ製品化できるのは、世界ではシリコンバレーか、深圳しかありません。一方、日本はコツコツ研究する「ものづくり」になると力を発揮します。その力の源泉は、日本の大学で、ミドリムシの場合は現在、花が開いてきたということです。もちろん、社会実装はベンチャー企業の仕事です。

――バイオ燃料では製油所を建設したのはユーグレナだけで、大手メーカーが参入しないのは?

出雲:単純にメンタリティーだと思います。大手にとっては我々が投資した60億円なんて大した金額ではないですよね。でも、それが取締役会や役員会では通らない。

古川:ミドリムシは「ゼロからイチ」という話。大手はすでにあるイチを大きくしていくことは得意だけれど、「ゼロからイチ」にしていくことができない。リスクがあったら「やめよう」という判断になってしまうから……。

こういった事業は、衆知を使う民主主義的なプロジェクトだと反対意見が多くなってしまう。ベンチャーそして創業者がパッションでやるという部分がないと進まないでしょう。

今は「ゼロからイチ」を生み出すことをやらなければならない時代。大企業がそれをできたら本当にすごいんですけど、今や創業者経営の大企業がないので、ますますみんなで話して決めるという傾向が強くなっていると思います。

出雲:おっしゃるとおりですね。衆知は日本企業が最も得意とするところで、悪いことではない。ただ、それが「ゼロからイチ」には向いていないのです。ゼロからつくる時は、僕のように「ミドリムシが好きだ」「ミドリムシが楽しい」という思いがないとできません。議論すれば「ミドリムシで飛行機なんか飛びっこない」って話に絶対なりますもん(笑)。

そこはうまく組み合わせるべきで、小さいサイズの仕事はベンチャーが情熱で1にする。1を10、100、1000と大きくしていくときは、大企業とともにオープンイノベーションで取り組む。これしか日本が生き残っていく道はないと思うんです

古川:そうですね。そして、これからの日本は、いかに「ゼロからイチ」を生み出す人を育てられるかにかかっています。

――ユーグレナの社風や目指すところは

出雲:二つ特長がありまして、一つは社員が「デジタルネイティブ」であること。もう一つは「ソーシャルネイティブ」であることです。彼らは、本当に持続可能な社会にならなければ自分たちが困ると思っているから、SDGsに真剣なのです。

そして、彼らは社会課題を解決する会社に入りたいと思っています。だから、昔なら大手に入社した優秀な人材が、ユーグレナのようなベンチャーに来てくれます。彼らは「働きがい」「生きがい」を求めているのです。

古川:投資マーケットでも、そういった社会のために役立つ企業が評価されるような仕組みを作ることが大事だと、私は考えます。

出雲:欧州の機関投資家は、石炭やたばこといった社会的に問題があるとみなされる株はすべて売って、投資する先がなく、お金が余っています。

うちのような会社が行くと「日本にはこんなにいいことやっている会社があるのか。大きい会社なんだろう」と聞いてくるんです。ただ、ベンチャーと答えると「その規模の会社だと何千億円という投資は無理だから、ちょっとだけ投資しよう」となってしまいます。

古川:それでも国内より、海外の投資家の関心が高いんじゃないの。

出雲:国内の投資家は「ユーグレナってすごくいい会社ですね」とは言うんですが、会議が最後にあると「これ本当に儲かるの」という話に……。で、結局「もうちょっと様子を見よう」となっていました。

イノベーションには世界一の大学を

――日本で新技術や新たな資源を広めていくため、開発や支援はどうなると思いますか

出雲:日本のノーベル賞受賞者は皆同じことを口にします。それは「どの研究が大成功し、大ヒットするかは分からない」という言葉です。

ミドリムシもちょっとうまくいってくると、急に「がんばったね」と投資が集まりました(笑)。このように、ほとんどの国の研究予算が「この人だったら失敗しないな」という人に集中してしまいます。これではノーベル賞受賞者のメッセージとまったく逆なんですよ。これを変えないといけない。

もう一つ。国の総合科学技術・イノベーション会議では、世界の大学ランキングトップ100に日本の大学を10校入れたいとしています。ちなみに今は5校が入っていますが、僕はトップ500に50校を入れることを目指したほうがいいと思っています。

――それはどういうことでしょう

出雲:日本の47都道府県それぞれの大学に眠っている世界一の技術を、しっかりと出してほしいということです。実は地方には世界一の大学が数多くあります。ゲノム編集では広島大学、有機ELは山形大学、新素材や新材料は東北大学と、これらの大学は世界でいちばん論文を引用されている先生がいるのです。

だから、東大を小さくしたような何の特徴もない大学をたくさん作るような施策はやめて、各分野で世界一を50作ってほしい。そこに優秀な人が集まり、新たなベンチャーが誕生し、技術は広まっていきます。

これから先、本当にやらなければならないのは次のミドリムシへの投資。なにが成功するか分からないから、しっかりと予算を配分し、各地域に世界一を作ってほしいのです。

古川:僕も科学技術政策担当大臣になったとき、ノーベル賞を取った人にお金を集中させても意味がないと言いました。そういう人は放っておいてもたくさんお金が集まるんだから。しかし現実は……。

出雲:ぜひ変えていっていただきたいです。

古川:出雲さんに言っていただくのは本当にありがたい。我々もがんばって変えていきます。

Scroll to top