なぜ、政治家の後援会やイベントは「高齢化」しているのか。10代20代のデジタルネイティブが、政治に興味がないだけなのか。
2018年最後のゼロプラMeetUPスピーカーは、デジタルネイティブの政治参加をテーマに活動する一般社団法人ユースデモクラシー推進機構代表理事の仁木崇嗣氏。15歳で自衛隊に入り、松下政経塾のセミナーなどに参加し、ベンチャー企業を経験した後に、起業。面白そうな議員や市長がいるとなると、もう新幹線に乗りましたぐらいの勢いで日本中を飛び回り、日本も超えてエストニアや深圳、香港にまで行く。その強烈な行動力で10代20代と上の世代をつなぐ仁木氏に、話を伺った。
アナログの極み「選挙」を変えたい、が
仁木:私は政治、特に地方や若者とテクノロジーの領域で活動しています。私が経営する株式会社火力支援で選挙のデザイン事業をやっていくなかで、選挙は非常にアナログで、その部分をビジネスで変えていくのはなかなか難しいと分かりました。そこでデジタルハリウッド大学大学院でテクノロジーについて学び、政治活動・選挙運動に応用する方法を研究し、その修士論文を基にしたプロダクトを作りました。選挙期間外における戸別訪問で対面に至る確率が約2.5倍になり、署名獲得率が約8.5倍になるサービスのベータ版なのですが、問題が一つ発覚しました。このサービスを使える人があまりいなかったのです。つまり、デジタルネイティブの人たちが政治領域に不在で、マーケットとして存在しなかった。ビジネスのみならず、テクノロジーでも選挙を変えるにはまだ早いと気づきました。
若者の身近なインターフェースを目指す「20代当選議員の会」
2015年には統一地方選挙があり、20代で当選した人が全国に136人いました。当時からFacebookアカウントを持っていてアクティブな人の全員にメッセージを送り、北から南まで会える人に会いに行って、東京に集まってもらいました。2015年7月に設立した一般社団法人ユースデモクラシー推進機構は、この「20代当選議員の会」のイベント開催からスタートしています。
この時期に私がやろうとしていたのは、せっかくデジタルネイティブなのだから、議会質問を作るときに調査した情報や、実際に何かをやってみたあとのフィードバックなど、ナレッジをクラウドの中で共有して、地域や党派を超えたネットワークを作ることでした。そうすれば、若くて経験がなくても、皆で協力して何倍かの力が出せるのではないかと考えたのです。
この会については、当選直後のピュアな状態で出会ったことによってフラットな関係性が生まれ、地域や党派を超えた緩やかなネットワークとして機能しています。スピンアウトで、議員主導で行われた企画もあり、政治家になりたい若者と地方議員が協働し、次の統一地方選挙に向けてどうやっていくか、スケジュールを共有するなどして若い政治家を増やす動きが始まっています。
政治や憲法のイメージを変える「デジ憲」
とはいえ、地方議員のネットワークだけだと選挙互助会的になりがちで、本質的な変化につながりづらい。もう少し大きな、政治のイメージを変えるインパクトを意識するようになりました。政治の根幹は、やはり憲法だと思います。憲法改正の論議も始まっていたので、憲法イベントの企画を考えました。
日本国憲法をベースに議論すると、左右の対立や第9条へのこだわりが出てしまう。どうしようかと思ったときに、130年以上前に当時の若者たちが作った私擬憲法があった。市井の方々がそれぞれ理想の国家像を考えて書いた私擬憲法のスタンスで、かつ、当時とは環境がデジタル時代に変わっているなかで憲法を考えたらどうか。憲法を少し違った角度から捉えるというコンセプトで企画したのがデジタル憲法フォーラム、「デジ憲」です。
延べ30人強の方々が、運営メンバーとしてボランティアで関わってくれました。憲法というテーマで若者が一緒にやれただけでも、価値があると思います。こういう人たちがいて、憲法との新しい向き合い方を考える動きが各地で生まれれば、今の時代でも政治や憲法のイメージは変わるものだと思うのです。この仲間と一緒にやりながら、かつ、地域にもっと増やしていきながら、この運動を全国に広げていきたいと思っています。
また、このイベントでは政治とテクノロジーを体感してもらうために、「sli.do」「DDDISC」「360°ライブ配信」など、いろいろなツールを使いました。こういう新しいツールを政治領域の人たちに体感してもらうことも重要です。
翌年の第2回は、マハラジャ六本木で開催しました。マハラジャは、上の世代での知名度は非常に高く、若い人にもクラブとして認知されている、世代を超えて楽しめるブランドです。その場所で、政治をエンターテインメントとして体感してもらいたかった。参加者には、左寄りの人もいれば、右寄りの方もいました。その人たちが一緒に楽しんでいる。憲法イベントに行って、眉間にしわを寄せて帰るのではなくて、楽しく帰る。政治が、ちょっとワクワクするものとして脳にインプットされる。そういう接点をもって政治に向き合う人が増えれば、もっとポジティブな世界になるのではないか。そんな兆しが見えたイベントになりました。
デジタルで政治を、国を変えるロールモデル「エストニア」
今年からやっているのが、エストニア視察報告会です。エストニアは1991年に今の国のかたちになるのですが、すでにデジタルテクノロジーが世の中にある状態で国が作られ、かつ、共産主義から独立したので、国の制度のベースがすごく自由主義的です。有名なのが、行政のサービスが99%デジタル化していることです。日本だとなんでこんなに面倒くさいんだというものが、エストニアでは全部シンプルになっている。そういうものを今年に行って見てきたままお伝えすると、驚く方が多い。
もちろんエストニアも完全に全部がすばらしいわけではありません。貧困率は日本よりも高く、一人当たりGDPも日本の半分です。ただ、共産主義時代の貧しさに比べれば非常に豊かになっているので、多くの人が今の方向性に前向きです。政府に対する考え方も日本とまったく違って、Government as a Serviceという言葉を使うのです。SaaS(Software as a Service)やPaaS(Platform as a Service)と同じような感覚で、Governmentとは人々を自由にさせるサービスであるとの感覚を政府側の人たちも持っているようなのです。なので、政府関係者と話をしても、民間のIT企業の社長と話しているような感覚が得られるところでした。
エストニアというワードでイベントを立てると、なんらかのかたちでエストニアに関係した方が、毎回一人か二人は参加してきます。そういう方をどんどん巻き込んで、アップデートしていきました。若い世代を中心にデジタルテクノロジーで行政を効率化したロールモデルとして、エストニアという現実に存在している国を知ることで、可能性を感じることができます。政治って、国って変えることができるんだ、こんなところまでできるんだというものを見てもらう機会として、ヴァージョン1.0から6.0まで作りました。毎回30~50人ぐらいの方が集まる会になっています。2019年からはエストニアだけでなくe-Democracy領域も含めたe-Governance全般を扱う取り組みにしていきます。
19歳が作り出す、政治を変えていくプラットフォーム
私がいま注目しているのは、19歳で起業した伊藤和真くんが手がける「PoliPoli」というプロダクトです。PoliPoliは政治家と有権者双方のニーズを満たす可能性を秘めたプラットフォームで、トークンエコノミーやブロックチェーンを使って市民や政治家が直接議論する、「荒れない2ちゃんねる」を目指しているようです。私たちの活動も、これからPoliPoliを活用していくつもりです。
PoliPoliは今後アップデートを重ねることによって、市民主導で熟議が起こる仕組みが実装されていくでしょう。選挙制度を補完する、代議士とのインターフェースになり得ます。トークンエコノミーがうまく機能し、法制度上の課題をクリアできれば、ネット上の共感を可視化し、政治献金的な機能も持たせられるので、政治家がオンライン上でオープンに活動するインセンティブになるでしょう。このような新しい経済圏を作り政治を変えていこうとするプロジェクトに、19歳の大学生が取り組んでいます。これが実装されていけば、目に見える変化も加速させていけるのではないかと考えています。
胸中に在るのは未来か過去か
明治初期、自由民権運動の時代は10代から30代の人たちが民主主義を志向し、議会を作っていきました。その記憶が薄れた現代だからこそ、今一度民主主義というものの原点に立ち返り、アップデートしていく姿勢が必要だと、私は思っています。
最後に、皆さまにお伝えしたい言葉があります。植木枝盛が亡くなる前に書いた言葉です。
未来が其の胸中に在る者 之を青年と云う
過去が其の胸中に在る者 之を老年と云う
おそらく当時も民主主義という海外の新しい考え方を日本に入れようとしたときに、守旧的な人はいた。若い方でも「なんだよ、これ」と思っていた人はいたかもしれない。植木枝盛は、年齢ではなくて未来を見ているかどうかで、青年と老年を分けました。私たちユースデモクラシー推進機構の「ユース」は、未来を見ている者が「青年(ユース)」であるというコンセプトで活動しています。
植木枝盛のこの言葉を覚えて帰ってもらえれば、来たかいがあったと思います。
質疑応答に入ると、集客の仕方や、どうしたら若い人たちが活動してくれるようになるのか、なぜ若者では自民党支持者が増えているのかなど、心底悩んでいる思いが発露する問いが次々と出てきた。仁木氏は、集客のコツとしては運営のボランティアスタッフなど、関与者を増やすことを挙げた。また、「若者たちにこびる政治も駄目、お年寄りにこびるのはもっと駄目」「若者・現役世代とお年寄りが結託して将来世代をいじめていることを自覚しないといけない」として、正しいことを言い続けること、正しいことを言うことが格好よく見えるような政治関係者が増えることに期待し、その努力をあきらめないことが大事だと言う。
デジ憲のその後についての問いに、全国のマハラジャで開催する構想が語られ、コラボレーションの提案も出るなど、今後への期待が大きくふくらむディスカッションとなった。