先端のアパレルは大量生産・大量廃棄からの脱却へ

大量生産して、膨大な廃棄を余儀なくされながら、そこから抜け出せない日本のアパレル業界。元ベイクルーズのCRM責任者で、現在独立コンサルタントの高野一朗は、sitateruやデザイナーのエージェント業など洋服を作る「川上」から、小売などの「川下」にまで関わりながら、アパレルを幅広く俯瞰しつつ、新たな流れを作り出そうとしている。それは、「ファンを文脈に、アパレル業界に受注生産時代を実現させたい」というもの。目を開かせてくれたのは「顧客視点」だった。

「能動的に動くきっかけ」とWeWorkにインスパイアされ

高野は、シェアオフィスのWeWorkを気に入っている。それにしても「料金が上がっても、利用者が殺到しているのはなぜか」。

 

高野は、「シェアオフィスは、仕事をする環境があるから価値がある」と、最初は考えていた。「しかし、それは自分の中では表向きに過ぎず、実は違う価値を求めていたのだと気づいた」と自己分析する。その違う価値とは「誰かとつながっている。誰かと話ができている」というものだ。

 

「WeWorkは、『ネットワーキングを提供したい』というのを、最優先の価値として掲げている。いつでもビールが飲み放題のビールサーバーは、コミュニケーションのツールとして置かれている。また、一見するとわからないがセキュリティがしっかりしている。だから、貴重品が盗まれやしないかといった不安感にとらわれず、安心して会話に集中できる。そこに、『つながることに集中してくださいね』との思いを感じる。他のシェアオフィスも同様のことを試みてはいるのだろうけど、案外できていない」。

 

WeWork内に掲げられている「Do what you LOVE」というスローガンを見た本人は、自分の好きなことをやり続ける。ここで、人と出会ってつながって、人生もっと楽しもうじゃないか。そんな思いに共感した人が集まっているのだろう。自分がいる意味、得られる価値など、能動的に人が動くところのきっかけになっていると、分析する。

 

そして、会社であれ、場所であれ、ブランドであれ、人が何かの下に集まる理由は、目に見えるものではない。そこにいる人同士のコミュニケーション、つまりつながりに価値がある。

 

実は、そのような思いに達したのは、最近の話だという。「ブランドや会社がある中で、そこにファンが付くということが、カスタマーサクセスの支援をしながら腑に落ちた」(高野)と言う。

 

洋服の世界は、プロダクトアウトなところがすごく強いと見ている本人からすれば、「よいコンテンツがあれば、人はついてくる」という考えが業界内にあるという。自らも「よい洋服や、かっこいいブランドづくりにこそ価値がある」と思っていた。

 

「しかし、今になって、そうではないと思うようになった。他人から『それいいね、どこで見つけたの?』と言われるような、人と違う洋服を着ることに喜びを見出していたが、深く考察してみたら、本当は『きっかけ』でしかなかった。洋服を介して、話が生まれることこそが楽しかったんだなぁと」(高野)。

 

この思いは、個人的なものにとどまらない。「会社であれ、場所であれ、ブランドであれ、人は何かに集まる。その理由って、実は目に見えない、集まっている人同士のコニュニケーションなのではないか。洋服の世界では、店の人とお客様の対話が生まれている。そこに、お客様も価値を見出しているし、店員も洋服やブランドが信頼できるから、安心してお薦めできる。いわば、洋服をキーとした、双方のつながりが重要」(高野)。

 

「洋服を着る、考える、作るなどの行為に携わると、単純に楽しい。楽しいイコール安心する。時を忘れて何かすると安心できる。自分の中から自然と打ち込んでいたものを、お客様相談や、カスタマーサティスファクションの話として傾聴できれば面白い」。

川上から川下まで、ファッション業界を俯瞰する立場に

高野は目下、アパレルやセレクトショップなどの小売だけでなく、ファッション業界全体を俯瞰できる立場にいる。

 

「力を入れているのは、シタテル株式会社が運営しているsitateruのアドバイザーと、立ち上げたばかりのデザイナーのコーディネーターです。前者は、全国の縫製工場ラインの稼働状況を示すプラットフォームで、いわば繊維業界のアスクルという位置づけ。レーンをもっと稼働させようと、注文先を見つけてくるのです。大量生産・大量消費ではなく、欲しいと言った人の数だけ作る受注生産をやっています。そうした思いに共感してくださるブランドさんを見つけてくる仕事をしています」。

 

もう一つのエージェンシーのローンチには、以下のような「もったいない」という思いがあった。「例えば、年2回の東京コレクションに出展しようと、専用のブランドを作って売ろうと頑張っているデザイナーさんがいるのですが、今の日本では金がなくなりつつあり、実現が難しい。クリエイション能力はあるので、他の会社の仕事を引き受ければ、もっと稼げるのに、ノウハウなどがない」(高野)。

 

そこで目をつけたのが、漫画家のエージェンシーである株式会社コルクのビジネスモデルだ。週刊や月刊の雑誌に描いてきた漫画家に、企業向けに挿絵を描いてもらうというもので、アパレル業界に応用できると考えた。

 

いずれも実際にやるとなると一筋縄ではいかない難しさだが、「もともとアパレル業界にネットワークがあったのと、『高野はソリューションを見つけてくるのが得意だ。持ってくる案件に外れがない』との評価を頂いておりまして」と言う。コーディネーターとして、スタートアップのノベルティ向けTシャツや企業のユニフォームなどを、こうしたデザイナーに回す仕事としての受注に成功している。

 

そんな高野から見たファッション業界は、転機を迎えている。「大量生産して、粗利50%とか利益10%というのが難しくなってきている。ブランドが増えれば、作られる洋服も増える。なのに、人口減社会を迎えているのだから、ビジネスモデルとしては破綻している」。

 

当然、安売りセールをせずに利益を出すことが求められるが、どう実現させていくべきかが見えづらい状況である。たとえば、インバウンドで来日する観光客にセールスしていけばどうかという考えがあるが、中国や東南アジアなどから来た観光客は、そもそも気候や体格が違うので売れないというのが実情である。

 

廃棄が5割という状況で、そもそもの価格設定も高くなりがちななか、考えられている妙案は、「先に買う人がいるという前提作り」になるとのこと。そうすれば、売れ残らないが、残念なことに「ある程度まで数を絞り、安売りセールスをせずに売値を下げるなどしているアパレルと、そもそも気づいていないアパレルが混在している」(高野)のが現状なのだという。

 

また、二つの課題がある。一つは、メーカー側が気づいていてもチャレンジしようとしないこと。「正直、考え抜いているアパレル企業の役員がいない。決裁権を持つ役員は、逃げ切り世代であって『自分たちのいる間はもつだろう』との思いがある。だから改革に積極的でない」(高野)。もう一つは、「実際に手に取って買うという文化があった買い手には、ウェブ上で見て買う環境ができていない。ただ『このブランドなら間違いはない』と安心感を抱くファンが存在しています。そのような層づくりが鍵になる」。このため、層へのアプローチを模索し続けているという。

「ムダへの厳しさ」追い風に業界系メディア以外も注目

追い風は吹いている。人口が減るなかで、日本人が厳しい目を注ぐようになっているためだ。その典型例がアパレル「ナノ・ユニバース」。適正な数だけを生産するとのプレスレリースを出したところ、NHKや日経、WBSをはじめ、ファッション業界系メディアも注目・報道し、社内が活気づいた(なお、生産はsitateruで行っている)。

 

「顧客視点、カスタマーサクセスの視点をもつことで、一つの業界で、製造・流通までを一人の客として、洋服のファンとして見られるようになりつつある。ものづくりにお客様が加わるという発想に至ることができた」という高野。お客様と従業員とを分けて考えていたが、「ブランドに対してのファンとしては一緒」と見るようになった。

 

また、「なるべく無駄に作らない」という風潮に対応していないことに不満を持っていたアパレル従業員に対しても、「単純に役職や役割などによって会社のファンになっているのではなく、『企業として存続していくために何をしているのか』を考える、真に愛着心を持っている従業員を可視化できるようになった」と考えている。

 

新たな視点を確保しつつ、全体に目を向けたコンサルティングとコーディネートをする高野。「ファンを文脈に、受注生産の話をできるようになりました」と言葉を結んだ。