グラデーション化する障害者のための、未来の居場所づくり

「患者がしあわせに生きられないのなら、医療の存在意義などあるのだろうか」。それが、株式会社MOF代表取締役社長の前田利恵子の信念だ。そんな前田が、このほど立ち上げたのがMOFCA事業部。9月3日に、千代田区内に障害者とその支援者のための相談施設「千代田区障害者よろず相談 MOFCA」として開設した。「幅広い障害者の居場所にしていきたい」と、静かな口調で意気込みを語る。そこには、「グラデーション化していく障害者」という思いがあった。

社会と社会じゃない場所の間にいる人達に支援の手を

「障害者支援には空白地帯がある」と、前田は言う。例えば、高校を卒業する年齢に相当する18歳までは障害者をサポートしてくれる養護学校があり、成人向けの就労支援サポートなども存在する。しかし、「卒業後などの中間地帯が空白になっています。また、施設に通ってはいるものの、時間を過ごすだけに終始し、言葉を選ばずに言うと『たむろしている』状態で、先に進まない。障害者だって自立したいし、稼ぎたいと思っているのに」。また、近年増加している発達障害者のなかには、障害者手帳を持たず、学校はなんとか卒業したものの、なかなかそこから先に進めない人もいる。

前田は「そうした社会と社会じゃない場所の間にいる人達に手を差し伸べたい。皆の居場所であるリビングルームを、家の外に作る」とMOFCAのコンセプトを掲げる。「常駐するスタッフとコミュニケーションを重ね、例えば『働きたいんです』という要望が出たら『じゃあ、この会社はどうですか』といった提案に発展させる、次につなげるハブにしたい。当事者だけでなく、家族からの相談も受け付けたい」と、前田は語る。

仲介に徹した新形態の「基幹相談」をビジネスのコアに

具体的に目指しているのは、仲介に徹した「基幹相談」。就労支援事業所や、必要なスキルを取得できる施設を紹介する一方で、「就職したことによって生活保護が打ち切られた人を、専門の相談員につなげていきたい」。

「そもそも、こうした施設や事業所は、横同士のつながりがありません」と、前田は指摘する。「居場所づくり」というコンセプトは、千代田区側から提示された。人口72万人の練馬区に比べて、千代田区には約6万人しか住んでいない。その分、障害のある人も少ないが、生活の面倒を見ていた家族が自身の高齢化によって対応が難しくなるなどの変化もあり、「サポートの施設を」との声が上がっていた。

また、区民が少ないということは、区職員の数そのものが少ない。生活保護、障害者福祉、児童福祉などさまざまな部署があるが、当事者にはそれぞれの部署の役割を理解することが難しく、どこに相談すればよいのか途方にくれてしまう。区側も問題を痛感しているなかで、「居場所」を作るというコンセプトが生まれたようだ。「行政の外からいったん試行錯誤し、しかる後に連携していくのがよいと思いました。セッティングなどの肉付けは、こちらでしていきました」(前田社長)。

広報は、ツイッターやフェイスブックを中心に展開している。「9月3日に開設します」とのつぶやき後、600人のフォロワーが生まれるなど、存在が当事者の間で少しずつ知られつつある。「相談や問い合わせがゼロの日が今までありません。他の区からの問い合わせも多い」と、前田も手応えを感じている。

常駐するスタッフは臨床現場経験を持つ看護師や保健師、助産師、そして保育士もいる。

サポートの在り方や、スタッフの配置などの組織を調整しつつ、作成中の事業計画書には「認知と親和」の言葉を入れた。イベントなどから世間に知ってもらい、ミッションを広げようとしている。そのミッションとして構想中なのが、行政のコミュニケーションに資するハブの構築である。今年3月、目黒で発生した児童虐待死事件(以前住んでいた香川県で児童相談所が虐待の事実を把握しながら、引っ越し先の目黒区で情報が共有されず、悲劇につながった)を引き合いに出しながら、「家庭内での障害者への虐待は多い。成年後見を担当する社会福祉協議会と連携したい。当事者がいろいろな窓口で、何度も同じ話をして大変な思いをしないよう、こちらが代わりに伝えるなどのコーディネートも考えています」と言う。

MOFCA
緑が見える大きな窓と、ゆったりした空間

我が国は、障害者雇用促進法によって、500人以上の事業所には2%の障害者雇用が義務付けられている。そうした企業に対し、理解や啓発活動をするとともに「適材適所で働ける障害者は多いし、ヘルプしていきたい」と考えている。また「就労支援所に何日間通いなさい」といった「計画相談」を支援し、相談支援専門員(高齢者施設のケアマネジャーに相当)による部門も作る予定だという。MOFCAから紹介したうえで面談してもらい、訪問作業やITなど、同社の有するさまざまな業種の就労支援事業所ネットワークから最適なオファーをしていきたいとしている。

また、勤務先での虐待を「こんなものだろう」と思いこんでしまう障害者もいる。「MOFCAのスタッフとの雑談の席で実情を聞き出し、自分でおかしいのかもしれないと気づける環境を作っていきたい」。

「障害者でもあり、隣人でもある」企業社会の実現へ

そんな前田は「やればやるほど、障害者の定義が難しいと痛感している」と語る。「障害って、何なんだろうか? 何の病気から障害者なのだろう? 知的障害、発達障害の人は、そうであると気づきにくい。そもそも、医師から診断が出ていない人は、支援がないため、どのように生きてよいのかが分かっていません。うつ病から回復し、社会復帰を目指す人向け専用の訓練施設がないという現状も知られていません」と指摘する。こうした範囲の広さを「グラデーション化」と表現した。 

また、高齢化社会に目が行きがちな日本に対しても、警告を発している。

「生まれる時のトラブルなどで、昔なら助からなかった命が医療の発達によって助かるようになった。そのことはよいのですが、何らかの後遺症としての障害を抱えながら生きていく人が今後増えていくでしょう。癌などもそうですよね。高齢化社会に目が行きがちですが、そうした現状が気づかれていません」。

ところが、そのような人達を排除しているのが今の社会だとしている。「『扶養するのが健常者』となっている一方、『働いている障害者』というイメージがいまだにない。障害者雇用促進法がなければ、採用ももっと数が少ないということは想像に難くない。扶養している障害者も多くいること、レストランの隣の席に車椅子の人がいるのが当たり前となってきているのに、『障害者でもあり、隣人でもある』光景を、企業でどのように取り入れていくべきなのか。就職先の企業も障害者の『働きたい』『消費もしたい』との思いに応え、それを日常とせねば、日本社会はつぶれてしまうのではないか」。

取り組む範囲が広い同社だが、スタッフの中には「障害者手帳の保有者も、後期高齢者もいます」。「まずは、こちらによる独りよがりにならないよう、障害者が何を求めているか情報収集をしていきたい」と、しっかり足元も見据えている。

明日、我々自身が障害を抱えて生きていく可能性もある。本当の意味でだれもが気軽に訪れる場所として、より多くの人の利用が期待される。